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第238話

ライオンのメガネ

ライオンのメガネ
ヴィルドラックの童話

おりがみをつくろう ( おりがみくらぶ より)
ライオンの顔らいおんのかお

 動物の国の王さまは、ライオンでした。
 そのライオンは年取ったおじいさんですが、まだまだ立派に動物の国を治めていました。
 王さまのライオンは、いつも言います。
「みなの者、弱い者いじめをしてはならないぞ。自分より弱い者、小さい者をいじめた者は死刑(しけい)にする」
 王さまのライオンは、そうやって動物の国の小さくて弱い者を守ってやりました。
 立派でやさしい王さまを、動物たちはみんな大好きでした。
 ところが近頃、王さまのライオンは目が見えなくなってきたのです。
 誰でも年を取ると、目がかすんできます。
 それはライオンでも同じで、もううまく走る事が出来なくなってしまいました。

 さて、それを見て大喜びしたのは、大臣(だいじん)のトラです。
 ライオンが王さまの務めを果たせなくなった時には、トラが王さまになれるのです。
「よしよし、もうすぐライオンは目が見えなくなって、何も出来なくなるぞ。そうしたら、わしが動物の国の王さまだ。王さまになったら、弱虫やチビの動物を片っぱしから食ベてやる」
 大臣のトラは、そう思っていました。
 そして動物たちはみんな、大臣のトラが考えている事を知っていました。
「どうか王さまの目が、もう一度良く見える様になります様に。大臣のトラが王さまになりません様に」
 ライオンが大好きな動物たちは、みんな一生懸命に祈りました。
 けれど王さまのライオンの目は、だんだん悪くなるばかりです。
「ああ、わしはもう、王さまとして動物の国を治める事が出来ないのかな」
 ある日の事、王さまのライオンはため息をつきながら、トボトボと歩いていました。
 すると洞穴の奥の方から、人間の匂いがしてきます。
 目は見えなくても鼻はまだ効くライオンは、そっと洞穴に入って行きました。
 洞穴の奥では、人間のおじいさんが一人で本を読んでいました。
 おじいさんは大きなライオンが近づいて来たのを見ると、ビックリして叫びました。
「た、助けてください!」
 するとライオンは、優しく言いました。
「人間のおじいさん、どうかビックリしないでください。
 わたしはあなたを食べようなんて、少しも思っていません。
 ただ、あなたがとても年を取っているのに、こんな小さい字の書いてある本が読めるのを不思議に思ったのです。
 年を取っても目がかすまない薬でも持っているのかと、聞きたいのです」
 ライオンは、この頃、目が見えなくて困っている事をおじいさんに話しました。
 そして王さまの位を狙っている、意地悪なトラの事も話しました。
 ライオンの話を聞いたおじいさんはニッコリして、おでこに乗せていた物をライオンに渡しました。
「わたしが年を取っても目が見えるのは、これのおかげじゃよ」
 それは、メガネでした。
「あんたは、やさしいライオンじゃ。王さまらしい立派なライオンじゃ。あんたがいつまでも王さまでいられる様に、このメガネをあげよう」
 おじいさんは、ライオンにメガネをかけさせてくれたのです。
 するとたちまち、あたりの物がハッキリと見えてきました。
 草の葉っぱに止まっている、小さなテントウムシまでちゃんと見えました。
 ライオンは大喜びでメガネをもらうと、ウォー、ウォーと喜びながら、岩を飛び越えて走って帰りました。
「ばんざーい、ばんざーい。王さまの目が見えるようになったぞ!」
 動物たちは大喜びで、ライオンを迎えました。
 たった一人、トラだけはガッカリして、病気になってしまいましたけれど。
 それからずっとライオンは元気で、今もメガネをかけて動物の国を立派に治めているのです。

おしまい

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