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4月12日の小話

気のきく男

気のきく男

 たいへん気のきくけらいがおりました。
 殿さまは、大そうのお気に入りで、客がくるたびにじまんしております。
「気がつくこと、気がつくこと。朝、おきるとな、すでに洗面の用意ができている。顔をあらっている間に、茶をくんできてくれる。たばこをすいたいとおもえば、目の前に、たばこが出てくる。手紙を書こうかなとおもうと、スズリと紙が、すーっと出る。いやはや、これほど、気がきく男はないわい」
 ところが、ある日のこと。
 朝おきる前から、殿さまは、どうも気分がすぐれません。
 どこか、からだが悪いようです。
「はてさて、このような大事なときに、あの男はどこへいったのであろう」
と、いっているうちに、帰ってきました。
「これ、そちは、朝からどこへいっていたのだ」
「はい、ゆうべからお顔の色が悪くみえましたので、医者をよびにいってきました」
「おう、よく気がついたぞ。さすがじゃ」
 それから殿さまは、四、五日、医者の薬を飲んでおりましたが、病気は、いっこうによくなりません。
「今日はひどく気分が悪い。あの男はいったいどこへいったのか」
と、いっているうちに、男が帰ってきたようすです。
「これ、そちはどこへいっていたのだ」
「はい、きのうからやまいがだいぶおもそうなので、お寺にいき、そうしきの準備をしてまいりました」

おしまい

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