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8月25日の小話
ゆうれいの命もこれっきり
「このごろ、西寺(さいじ→京都)の墓地から、ゆうれい(→詳細)が出るんだってな」
「おお、そうよ。みんなこわがって、ちかごろでは、ひとっ子ひとり、とおらぬわ」
「まったく、めいわくなことだ」
夕すずみの若者が集まってはなしていますと、中でも強そうな男が、
「よし、おれがいって、出ないようにしてやろう」
と、いいます。
「だいじょうぶか」
みんなで心配しましたが、
「だいじょうぶ、まかせておけ」
男は、ポンと胸をたたくと、お酒を一ぱいひっかけて出かけました。
墓地についた男は、大きな墓石(はかいし)のかげで、ゆうれいの出るのを、いまかいまかと待っています。
と、うわさどおり、夜中になると、ヒューッドロドロドロドローと、墓石の下から出てきたゆうれいは、ふらふらと墓地のはずれのほうへ出かけていきます。
「いまだ!」
男は、用意してきたねん土をふところから取り出すと、ゆうれいの出たあなにつめて、ふみかためてしまい、また、墓石のかげにかくれました。
しばらくして、ゆうれいはもどってきましたが、さて、あなに消えようとしても、あながつまっていてはいれません。
ヒューッドロドロと、なん回やっても消えられず、しまいに、へなへなとしゃがみこんで、
「ああ、わたしの命も、もうこれっきりだ」
おしまい