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10月4日の日本民話
  
  
  
  ハチとアリ
  秋田県の民話 → 秋田県情報
 むかしむかし、男鹿半島(おがはんとう→秋田県)に虫たちの国があり、その国にきれいなハチが住んでいました。
   ハチの羽はきれいにすきとおっていて、まるで天女(てんにょ)の羽衣(はごろも)のようです。
  「なんてきれいんだろう。日の光にすかすと、虹のように色どりきれいなしまもよう出来る。おらは、この村で一番美しいんじゃ」
  と、ハチはわれながらうっとりです。
   さて、おなじ村に住むアリはというと、いつもいつもドロンコになりながら働いています。
   ハチは、働いているアリのところへ飛んできて言いました。
  「毎日毎日ごくろうじゃのう。でも、働くばかりじゃなくて、たまには海でも見てゆっくり休んではどうじゃ?」
  「海? 海ってなんだ?」
  「おや? アリさんは海を知らんのか? まあ、何と言えばいいのか。海はな、塩からい水が青く光っていて、ザブーン、ザブーンと波打ってるだよ」
  「ザブーン、ザブーンか。おもしろそうだな」
  「そうとも。それからな、その海に何がいると思う?」
  「さあ、知らねえ」
  「さかなだよ。さかながいるんだ」
  「さ・か・な?」
  「なんだ、さかなも知らんのか。さかなはな、すっごくおいしい食べ物なんだ」
  「へーっ、そんなにおいしいなら、食ってみたいな」
  「だがな、おらはこの美しい羽なら海までひとっ飛びじゃが、アリさんにはちょっとむりじゃな」
  「だいじょうぶ。ちゃんとハチさんについていくから」
  「よし、じゃあ、おくれないようについてこいよ」
  「わかった!」
   アリは、空を飛ぶハチを必死で追いかけました。
   やがて、一足先に海に着いたハチは、海につきだしている岩の上でひと休みです。
  「ああ、海はいつ来ても気持ちがいいな。・・・おや?」
   ハチは、岩のまわりを泳いでいるニシンのむれを見つけました。
  「これはニシンじゃねえか。よしよし、一番大きいのを取ってやる。・・・今だ!」
   ハチは飛びはねたニシンをつかまえると、おしりのハリでチクリとさしました。
  「よし、つかまえたぞ!」
   そのころ、アリはやっと海に到着しました。
  「こいつが海というものか。海って、でっかいなー」
   アリが感心していると、波にのって飛び出した大きなタイが空中へ投げ出されて、アリの目の前にドスンと落ちました。
   そこへ、ニシンを持ってハチが飛んできました。
  「おーい、アリさん、やっと来たんだな。あんまり遅いんで、おらはもうニシンをつかまえたぞ。見てみろ、この大きなニシンを。・・・うん? ややっ、アリさん、これはなんともでっかいタイだな」
  「これは、タイというのか?」
  「そうだ。タイはさかなの王さまで、味は天下一品じゃ」
  「そうか、それはありがたい。ところでハチさん。ハチさんが持っているそのさかなは?」
  「これか? これはニシンじゃ。アリさんがあんまりおそいんで、もうとっくのむかしにつかまえたんだ」
  「さすがハチさん。・・・じゃが、ニシンよりもタイの方がでっかいし、赤くてうまそうだ」
   そういうアリに、ハチがすりよってきていいました。
  「なあ、アリさん。おらは見た目にもきれいだし、美しい羽根も持っている。そのタイはおらの方がにあうと思うだが」
  「うん? とりかえっこをしてくれというのか? いやだ、ことわる」
   そういってタイをかついで帰ろうとするアリに、ハチは追いかけていいます。
  「なあ、友だちのアリさん。このおらの美しさには、この赤いタイがお似合いなんだ。それに、お前さんの黒っぽい体には、ニシンの青黒い色はちょうどよくにあう。そうだと思わねえか」
  「思わん! とにかくタイはやらん!」
  「いいや、タイはおらで、アリさんがニシンじゃ!」
  「ハチさんが、ニシンじゃ」
  「なんだと!」
  「なにおー!」
   こうしてハチとアリのけんががはじまり、二匹は村長のカブトムシに、どちらがタイをもらうかを決めてもらうことにしました。
   ハチとアリの話しを、ジッと聞いていた村長がいいました。
  「よし、それではさばきをつける。ハチとアリよ、よーく聞くがいい」
  「はい」
  「へい」
  「まずハチよ。おまえは九九(くく)を知っとるか?」
  「はい、知ってます」
  「では、二、四が?」
  「八です」
  「そのとおり。二、四が八。つまり、ニシンがハチじゃ」
  「なるほど」
  「つぎに、アリよ」
  「へい」
  「人からものをもらったら、なんという?」
  「ありがたいです」
  「そう、ありがたいじゃ。つまり、アリがタイじゃ」
  「なるほど」
  「これによって、アリがとったタイはアリのもの。ハチがとったニシンはハチのものということじゃ。じゃが、お前たちは友だち同士、どっちがどっちでけんかするよりも、ニシンとタイをなかよく半分ずつにしてはどうじゃな」
  「なるほど、その手があったか」
   村長の話になっとくしたハチとアリは、ニシンとタイを仲良く半分こして食べたそうです。