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10月20日の世界の昔話

亡霊の恩返し

亡霊の恩返し
中国の昔話 → 国情報

 むかしむかし、中国の山東省というところに、許という漁師がいました。
 許は、とてもお酒がすきで、毎晩、川に出かけては、さかなをとるアミをうちながら、ゆっくりお酒を飲んでいました。
 でも、許のお酒の飲みかたは、少しかわっています。
 まず、自分がさかずきで飲んでから、ほんのちょっと地面にたらします。
 そして、
「まあ、お飲みなさいよ」
と、まるで友だちにすすめるようにいうのです。
 これには、わけがありました。
 ながいあいだ漁師をやってきた許は、そのあいだに、ずいぶん友だちを川でなくしました。
 お酒をたらすのは、その人たちへの、心ばかりのささげものだったのです。
 ある夜のことです。
 川岸を、一人の若者が通りかかりました。
「いかがです。川を見ながら、一ぱい飲みませんか?」
 許は、お酒の相手がほしいと思っていたので、若者に声をかけました。
 すると若者はうれしそうに、許の横に腰をおろしました。
 その夜、二人はまるで、むかしからの友だちのように、お酒をくみかわしました。
 そろそろ夜が明けようとした時、許は、まだ一ぴきも、アミにさかながかかっていないことに気がつきました。
「これはこまったな。女房になんていおう」
と、ガッカリしていると、ふいに若者が消えて、そのかわり許のアミには、ピチピチと、たくさんのさかながかかりました。
「これは!」
 許がビックリしていると、また若者があらわれて、
「ほんの、お礼のしるしです」
と、いいました。
 許は、ふしぎな若者だなと思いましたが、何よりもさかながとれたのがうれしくて、何度も何度もお礼をいいました。
 すると、若者はわらって、
「いいえ、今までに、ずいぶんお酒をごちそうになりましたから」
と、いうのです。
「今までにだって? そんなはずはない。あなたとお酒を飲んだのは、初めてのはずだが・・・」
 許がおどろいていると、若者はかさねていいました。
「それに、これからも友だちとして、おつきあいさせてもらいたいので」
「おお、それはもちろん。こちらからおねがいしたいくらいだ。そうだ、あなたのお名まえは?」
「王六郎と、おぼえておいてください」
 若者はかるく頭をさげると、足ばやにどこかへいってしまいました。
「ふしぎな若者だな・・・。おおっ、それよりさかなさかな」
 許はさっそく、とれたさかなを市場にもっていきました。
 さかなはどれもみごとなものばかりで、とぶように売れてしまいました。
 許と若者は、それから毎晩、川で酒をくみかわしました。
 半年くらいすぎたある晩、いつものようにやってきた若者は、
「いろいろお世話になりましたが、今日でおわかれしなくてはなりません」
「おわかれですって? それはまた、どうしてです?」
 許がたずねると、若者は心をきめたように、まっすぐ許を見ていいました。
「じつは、わたしはこの川の亡霊(ぼうれい)なのです。わたしはお酒がとてもすきで、毎日のように飲んでいました。そのために、川にころげおちて死んだのです。亡霊になってもお酒を飲みたいと思ったので、あなたが川岸にお酒をたらしてくださったことが、どんなにうれしかったか。そのお礼がしたくて、ここへやってきたのです」
「それなのに、どうしておわかれしなくてはならないのですか? これからもいっしょに飲みましょう」
 許がいうと、若者はうれしそうにこたえました。
「実は、お酒の失敗がゆるされて、もう一度、この世に生き返ることになったのです」
「ほう、それはめでたい!」
 許がお酒をすすめると、若者はつづけていいました。
「しかし、わたしが生き返るかわりに、明日のお昼ごろ、だれかが川におちて死ぬことになっているのです」
 つぎの日、若者のいったことが本当かどうか、許は川へいってみました。
 するとそこへ、赤ん坊をだいた女の人がやってきて、あっというまに足をすベらせてしまいました。
 赤ん坊は、とっさに岸へなげ出されましたが、女の人は、グングンと急流に流されていきます。
「こまったぞ! あの人が若者のかわりらしい。助けてやりたいが、そうすれば若者は、生き返ることができないし」
 許がウロウロしていると、川の流れが急にかわって、女の人は浅瀬にうちあげられました。
 その夜、若者は川にやってきました。
「わたしは、女の人をおぼれさせることができませんでした。もう、亡霊のままでいることにします」
「そうか。でも、あんたは立派だよ!」
 許は、若者をなぐさめてやりました。
 ところがある晩、若者がやってきていいました。
「許さん、今度こそおわかれです」
「なんだ? また、身がわりがきまったのですか?」
「いいえ。あの女の人を助けたことが神さまの耳に入って、わたしは遠い町のまもり神になることがきまりました。生き返ることはできないけれど、生きている人のいのちをまもる、とても大切な仕事です。これからまいります。あなたもお元気で。ご恩はわすれません」
 それっきり、若者は川にはあらわれませんでした。

おしまい

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