1月9日の日本の昔話
とり年生まれ
吉四六(きっちょむ)さん
むかしむかし、あるところに、吉四六さんという、ゆかいな人がいました。
吉四六さんの村の庄屋さんは、たくさんのニワトリを飼っていますが、ニワトリを放し飼いにするので村人たちはすっかり困っていました。
「また、庄屋さんとこのニワトリが、家の野菜畑を荒らしたぞ」
「こっちは、ほしもみが食われてしまった」
そこで村人たちが集まって、庄屋さんの所へ文句を言いに行ったのです。
「庄屋さん、ニワトリの放し飼いは止めて下され」
すると庄屋さんは、平気な顔で、
「わしは、酉年(とりどし)生まれだから、ニワトリだけは大事に飼わなければならんのでな」
と、言って、放し飼いを止めようとしません。
そんなある時、このニワトリが吉四六の野菜畑に入って、大根の葉をすっかり食い荒らしてしまいました。
「ああっ、家の大根が!」
怒った吉四六さんは大きな草刈りがまを振り上げて、畑を荒らす十羽のニワトリを殺してしまいました。
それを知ったおかみさんは、びっくりです。
「お前さん、大変な事をしてくれたねえ。庄屋さんに、何と言ってあやまりに行ったらいいんだい?」
「なあに、任せておけ。それより今夜は村の衆を呼んで、鳥料理のごちそうだ」
吉四六さんは、平気な顔で言いました。
さて次の朝、吉四六さんは大がまを振り上げて、庄屋さんの家に飛び込みました。
「もう、我慢ならねえ! 村の衆に代わって、庄屋さんの首をもらいに来た!」
「こら、吉四六! それは何の事だ!?」
「おめえさまを生かしておけば、村の衆の命が危ねえからだ」
「命が危ない? そら、一体どうして?」
「庄屋さんとこじゃ、ニワトリを放し飼いにしとるだろうが!」
「そ、そりゃ、わしが酉年の生まれだから、ニワトリを」
「それだ! だからおら、おめえさまの首を切りに来たんだ。村の衆の命が危ねえ」
吉四六さんは、大がまを振り上げて言いました。
「ま、待ってくれ、吉四六。ニワトリの放し飼いが、何で村の衆の命に?」
「そら、庄屋さん、考えてもみなされ。
みんなが自分の生まれ年のけものを放し飼いにしたらどうなるか。
お前さまは酉年だからまだいいが、村の中にはトラ年生まれも、竜年生まれもいる。
トラや竜を放し飼いにしたら、村の衆の命はどうなる?!」
吉四六さんは一段と高く、大がまを振り上げました。
「わかった、わかった。
放し飼いはやめるから!
いや、もう二度とニワトリは飼わないから!
だから、かまを下ろしてくれ!」
庄屋さんは吉四六さんに、ぺこぺこと頭を下げて頼みました。
「そうか。村の衆の命が危ねえから、ニワトリ十羽の首はもらったが、庄屋さまの首は止めとするか」
吉四六さんはそう言うと、振り上げた大がまを下ろして引きあげて行きました。
おしまい
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