2月24日の日本の昔話
鼻かぎ権次(ごんじ)
高知県の民話
むかしむかし、権次(ごんじ)という若者がいました。
あるとき権次は仕事で舟に乗り、何日も家に帰れないことになりました。
心配するお母さんに、権次は、
「大丈夫、おれは運がいいから。そうだ、運がいい証拠を母ちゃんに見せてやるよ。俺が出かけて十日たったら、家を焼いとくれ」
「えっ、家をかい?」
驚くお母さんに、権次はにっこりうなずきました。
「そうさ。ちゃんと焼いておくれよ」
権次が舟に乗って海へ出て行き十日がたつと、お母さんは約束通り家に火をつけました。
小さな家はあっという間に火事になり、すっかり燃えてしまいました。
そのころ権次は舟の上で、くんくんと鼻をならしながら仲間に言いました。
「あれ、今、俺の家が燃えてる。こりゃ火事だ!」
それを聞いて、仲間たちは大笑い。
「あははは。こんな遠く離れていて、火事がわかるもんか」
でも権次は、すまして答えました。
「まあ、帰ってみればわかるさ」
それから何日かして、仲間たちは仕事を終えて村に帰るとびっくり。
本当に権次の家が燃えてなくなっていますし、いつ焼けたかとたずねると、ちょうど舟の上で権次が鼻をくんくんしていた日と同じだったのです。
「すごい! 権次の鼻はすごいぞ!」
「よし、もう一度ためしてみよう」
仲間たちは、村の井戸に炭をいれました。
「よし、権次に何のにおいか当てさせよう」
その様子を、旅のおばあさんが見ていました。
そして村を出てから、思い出しては笑いました。
そこへちょうど、権次が通りかかったのです。
「おばあさん、何がおかしいのかね?」
おばあさんは笑いながら、権次に言いました。
「いや、今ね、おかしな村を通りかかったんだよ。なんでも、においかぎの名人がいるそうで、井戸の中の炭のにおいを当てさせようと村の連中が相談したのさ。いくらにおいかぎの名人だって、井戸の中の炭のにおいがわかるもんかね」
それを聞いた権次は、にやりと笑いました。
「そりゃ、たしかにおかしな話だ。おばあさん、おもしろい話を聞かせてくれてありがと」
おばあさんと別れた権次は、すました顔で村に帰りました。
それから井戸のそばにくると、くんくんと鼻をならして、いきなり大声で村の人たちに言いました。
「おい、誰か井戸の中に炭を入れただろう」
それを聞いた村の仲間たちは、顔を見合わせて驚きました。
さて、権次の鼻のうわさは、殿さまの耳にも入りました。
この頃、殿さまは体の調子が悪くて、とても困っていました。
お腹が痛いと思ったら、次の日には背中、背中が直ったら、今度は足、足が直ったと思ったら、次は頭と、痛いところが体中をまわっているのです。
殿さまは、権次を城に呼びました。
「これ、権次とやら、病気の原因をにおいであててみよ」
これには、権次もまいりました。
とりあえず、殿さまに鼻を近づけて、くんくんとしてみましたが、わかるはずがありません。
「そうですな、しばしお時間を」
権次はそう言って、城を出て行きました。
「こりゃ、困ったぞ。このままどこかへ逃げようかな?」
権次が山の中へ足を踏み入れると、草の茂みのむこうから、こんな声が聞こえました。
「殿さまも、気の毒じゃなあ」
「ああ、あんな病気なんて、庭のガマガエルを追い出せばすぐに直るのになあ」
そっとのぞくと、二人の天狗がお酒を飲みながら話しているではありませんか。
(しめた!)
権次はすぐに城へ戻ると、城の庭の池のまわりで鼻をくんくんとさせて、大声で殿さまに言いました。
「原因がわかりました! 庭のガマガエルを今すぐ追い出してください。ガマガエルに、お殿さまの病のにおいがします」
家来たちは、すぐにガマガエルを捕まえて、城の外へ追い出しました。
そのとたん、殿さまの体はすうっと楽になったのです。
「あっぱれ、あっぱれ。ほうびをとらせてやろう」
殿さまに山のようなほうびをもらった権次は、お母さんのもとへ帰ってこう言いました。
「なあ、母ちゃん。俺は運がいいだろう?」
おしまい
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