3月4日の日本の昔話
生あるものは
むかしむかし、ある寺に、和尚(おしょう→詳細)さんと小坊主がすんでいました。
和尚さんは、カキが大すきです。
秋になると、寺のカキの実を自分一人で、毎日うまそうに食べていました。
さて、秋も終りに近いある日のこと。
和尚さんが外出し、一人で留守番をしていた小坊主は、カキの木に真っ赤に色づいた実が二つだけぶらさがっているのをながめていました。
「ああ、なんとうまそうなカキの実じゃ。せめて一つだけでも食うてみたいものよ」
そんなことを思っていた小坊主は、とうとうがまんできずに木に登り、カキの実を一つ食べてしまいました。
そのカキのおいしいこと。
小坊主は、われを忘れて、二つとも食べてしまいました。
ところが、ふと、われにかえった小坊主は大あわてです。
和尚さんの大好物(だいこうぶつ)のカキを食べてしまったからには、和尚さんはカンカンになって怒るはず。
なんとか和尚さんを怒らせない方法はないかと、考えました。
あれこれ考えて寺の中をうろうろしていると、うんわるく、和尚さんが大事にしていた、ちゃわんを割ってしまいました。
カキのことはともかく、大事なちゃわんまでも。
さて、夕方になり和尚さんは帰ってきました。
その和尚さんに、小坊主はこういいました。
「和尚さまの留守中に、旅の坊さんが来られまして、私に問答(もんどう→ちしきをきそいあう修行)されました。『生あるものは・・・』と、聞かれましたが、私には答えることができませんでした」
それを聞いた和尚さんは、ニッコリ笑って、
「そうか、そうか、そのように問われたならば『必ず滅(めっ)す』と答えるのじゃ。生あるものは必ず滅す。そして形あるものは必ずこわれるもの。それはしかたのない事じゃ」
和尚さんがこういったとたん、小坊主はサッとわれたちゃわんを目の前にさし出しました。
「和尚さま、許して下さい。大事なちゃわんをわるやら、おまけに、カキまでも食べてしまいました」
これには、さすがの和尚さんもまいりました。
怒るに怒れず、にがわらいで小坊主をゆるしてやりました。
おしまい
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