5月29日の日本の昔話
小槌(こづち)の柄(え)
大分県の民話
むかしむかし、大分のある田舎に、仕事もしないで遊んでばかりいる男がいました。
ある日の事、男が木陰で寝ていると、働き者のアリがやってきて言いました。
「お前、そうして寝ていても、食べる物は集まらんじゃろう。早く起きて働け」
すると男は、
「ばか言え、こんなに暑いのに、働くなんてごめんじゃ」
男がそう言うと、アリはしばらく考えてから、こう言いました。
「そんなら、ええことを教えてやろう。この山奥のお宮さんに、大黒さんがいる。その大黒さんは、振れば何でも欲しい物が出る打出(うちで)の小槌(こづち)という物を持っておるから、それを借りて来たらどうじゃ。そうすれば、働かんで食えるぞ」
「おおっ、振るだけで何でもか! そいつはありがたい」
男は起き上がると、喜んで大黒さんのところへ行きました。
そして、
「大黒さん、大黒さん、打出の小槌とやらをわしに貸してくれんか。それで食い物を出そうと思うんじゃ」
と、頼みました。
すると大黒さんは、
「貸してやってもええが、あいにく小槌の柄が折れとってのう。その柄は普通の物では役に立たん。握るところがくぼんで黒光りするような、使い込んだクワの柄でなければならんのじゃ」
と、言うのです。
男はそれを聞くと、その日から毎日毎日クワを握って、
「まだ、くぼまんか。まだ、くぼまんか」
と、言いながら、畑仕事を始めたのです。
こうして一年たち、二年たちと、何年もまじめに働いているうちに、食べ物がだんだんと家にたまってきたのです。
ある日のこと、大黒さんが山からおりてきて、
「くぼんで黒光りする柄は、まだ出来んのか? 出来たらすぐに、打ち出の小槌を貸してやるぞ」
と、言いました。
すると男は、
「ああ、大黒さん。柄はまだ出来んが、まじめに働いたおかげで、家にはこんなに食べ物がたまった。それに、働くのが楽しくなった。だからもう、小槌はいらんようになった」
と、言いました。
するとそれを聞いた大黒さんは、にっこり笑って、
「そうか。それはめでたい。どうやらお前の心に、立派な打ち出の小槌が出来たようだな。これからもまじめにクワを振れば、欲しい物は何でも出てくるようになるぞ」
と、言って、山に帰って行ったそうです。
おしまい
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