6月17日の日本の昔話
ちょうふく山のやまんば
むかしむかし、ちょうふく山という山のふもとに、小さな村がありました。
このちょうふく山には、おそろしいやまんば(→詳細)がすんでいるという話です。
ある年の十五夜のばん、村のものがお月見をしていると、にわかに空がかきくもり、おそろしげな声がひびきわたりました。
「ちょうふく山のやまんばが、子どもをうんだで、もちもってこう! こねば、人もウマも食いころすだどう!」
村のものはビックリ。
みんなで米を出しあって、大あわてでやまんばへの、いわいのもちをつきました。
ところが、いざそのもちをやまんばへとどけることになると、みんなおそろしがって、だれもいこうとしません。
どうすべえ、と話あったところ、
「そうだ、いつも力じまんばかりしていばっておる、かも安(やす)と権六(げんろく)にいかせるべえ」
と、いうことになりました。
「だ、だがよ、おれたちゃ道をしらね。どうやってもちをとどけりゃいいんだ?」
すると、村いちばんの年よりの、大ばんばが進み出ました。
「わしが知っとるで、道あんないするべ」
こうなっては、かも安と権六は、いまさらこわいとはいえません。
もちをかかえると、トボトボと大ばんばの後をついて、ちょうふく山ヘとのぼっていきました。
山道はだんだん日がくれ、なまあたたかい風がふいてきます。
「お、大ばんば、だいじょうぶだか?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶさ」
そのとき、さっと強い風がふきつけ、
「もちはまだだか!」
と、ぶきみな声がひびきました。
「ひえっ、出たあ!」
「た、助けてくれえ!」
かも安と権六はふるえあがって、たちまちにげだしてしまいました。
「ああっ、これ、またんか。・・・やれやれ、わし一人では、もちを運べんのになあ」
しかたありません。
大ばんばは、もちをおいて、やまんばの家をたずねていきました。
やまんばは大ばんばを見ると、うれしそうに笑いました。
「ごくろうじゃな。きのう赤子をうんで、もちが食いとうなったで、その子を使いに出したんじゃ。して、もちはどこじゃな?」
大ばんばはビックリです。
あのおそろしい声を出したのが、生まれたばかりの赤ん坊だったとは。
「はい、はい。もってきたども、あんまりおもたいもんで、山のとちゅうにおいてきましただ」
これを聞くと、やまんばは赤ん坊をふりかえっていいつけました。
「これ、まる。おまえ、ちょっといってもちをとってこい」
すると、まるとよばれた赤ん坊は、風のようにとびだすと、おもいもちをかついで、あっというまにもどってきました。
さすがは、やまんばの子です。
おそろしくなって、大ばんばが帰ろうとすると、やまんばがひきとめました。
「せっかくきただ。すこしおらんちの用事をかたづけていってくれろ」
大ばんばは、いやともいえず、それから二十一日のあいだ、やまんばの家で、あれこれとはたらいたそうです。
やがて、
「里ヘ帰りたい」
と、やまんばにたのんでみると、
「長いことひきとめてすまんかった。それじゃ、みやげにこれをやるべ」
と、やまんばは、みごとなにしきの布を大ばんばにくれました。
「ほれ、まる。大ばんばを村まで送ってやるだよ」
いわれたまるは、大ばんばを軽々とかつぎあげ、あっというまに村に運んでいきました。
さて、村に帰ってみると、もう大ばんばは死んだものと、大ばんばのそうしきのさいちゅうでしたから、村のものはビックリ。
大ばんばはわけを話して、やまんばがくれたにしきを、村のものに分けてやりました。
ところがその布は、いくら使ってもすこしもへらない、ふしぎなにしきでした。
それからというもの、そのにしきはこの村の名物となり、みんなしあわせにくらしました。
おしまい
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