6月30日の日本の昔話
野ギツネ
むかしむかし、山にキツネが一ぴきすんでいました。
ときどき村へ出てきて、三本松(さんぼんまつ)のあたりで、人をばかすのです。
ある日のこと。
百姓(ひゃくしょう→詳細)が、このキツネのことを話していました。
すると、そこへ旅のさむらいがとおりかかって、
「そんな野キツネの一ぴきぐらい、拙者(せっしゃ)が、たいじしてくれるわ」
と、毛だらけの太いうでをまくって、ポンとたたいて見せました。
かなりの腕自慢のようです。
そして、三本松までやってくると、
「まだ出んか、まだ出んか」
と、待っていましたが、やがて、
「ややっ、ついに出たぞ」
山のほうから、きれいなむすめがひとり、しゃなりしゃなりと歩いてきました。
むすめはさむらいを見ると、そばへきて、
「わたしは村までいくものですが、時はもう夕方で、ぶっそうです。おさむらいさま、どうかわたしを村までおつれくださいませ」
と、きれいな声でいいました。
でも、さむらいは、
「なにをぬかす。このドギツネめ! 拙者が見やぶったからには、逃げしはせんぞ!」
と、つかみかかりました。
すると、むすめはニコッと笑って、パッと消えました。
と、思っていたら、今度は若い商人になって、
「わたしは、江戸のものでございますが、どうも、ひとり旅というものは、さびしいもんでございます。おさむらいさま、どうぞ旅の道づれになってくださいませぬか」
「なにっ! おまえもさっきのキツネじゃろう。拙者をだまそうたって、その手はくわぬぞ!」
キツネは見やぶられて、今度は、おじいさんにばけました。
それも見やぶられると、おばあさんに。
おばあさんも見やぶられると、坊さんに。
坊さんも見やぶられると、キツネは、よっぽどこまったとみえて、とうとう、一ぴきの野ギツネになってしまいました。
さむらいは、大笑いしながら、
「ウワハハハ。正体をあらわしおったな。このドギツネめ。生けどりにしてやるわ」
と、両手をひろげておいかけました。
キツネはむちゅうで逃げますが、さむらいはキツネのしっぽをつかまえると、
「えいや、えいや」
と、引っぱります。
キツネはしきりに、
「ココン、ココン」
と、泣いてあやまりますが、
「いくら泣いたって、ようしゃはせんぞ」
さむらいは両手に力をこめて、グイグイしっぽを引っぱります。
すると、
スポーン!
大きな音がして、キツネのしっぽがぬけました。
「コンコーン!」
しっぽのぬけたキツネは、泣きながらどこかへ行ってしまいました。
「逃がしたか、まあいい。化けギツネのしっぽとは、いいみやげができたわい」
すると、そのとき。
「こりゅ、おさむらいさま、なにをなさる!」
ふりむくと、百姓が目をつり上げて立っています。
百姓は、さむらいの手にあるものをひったくると。
「わるさするのも、いいかげんにせい。なんで、おらが畑のダイコンをぬいた」
「へっ? ・・・ああっ! しっぽがダイコンに化けた!」
さむらいは、すっかりキツネにばかされてしまいました。
おしまい
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