7月8日の日本の昔話
子育てゆうれい
むかしむかし、ある村に、一けんのアメ屋がありました。
ある年の夏のこと、アメ屋さんが、夜もおそくなったので、そろそろ店をしめようかと考えていると、トントントントンと、戸をたたく音がします。
はて、こんなおそくにだれだろう?
と、戸をあけてみますと、女の人が立っていました。
「あの、アメをくださいな」
アメ屋さんは、女の人が持ってきたうつわに、つぼから水アメをすくって入れました。
「一文(30円ほど)いただきます。ありがとうさん」
この村では見かけない人です。
アメ屋さんはそのとき、なんとなくきみのわるい感じをおぼえました。
そのつぎの日も夜おそく、アメ屋さんがとじまりをしようと思っていると、また、戸をたたく音がします。
「あの、アメをくださいな」
やはり、あの女の人でした。
女の人は、きのうと同じようにアメを買うと、スーッと、どこへやら帰っていきます。
それからまいばん、夜ふけになると、女の人はアメを買いに来ました。
つぎの日も、そのつぎの日も、きまって夜ふけにあらわれては、アメを買っていくのです。
ある雨の夜。
そのばんは、となり村のアメ屋さんがたずねてきて、話しこんでいたのですが。
「あの、アメをくださいな」
いつものようにあらわれた女の人を見て、となり村のアメ屋さんは、ガタガタふるえだしたのです。
「あ、あの女は、ひと月ほどまえに死んだ、松吉(まつきち)のかかあにちげえねえ」
「えっ!」
二人は顔を見あわせました。
死んだはずの女が、夜な夜な、アメを買いにくるとは。
二人は、女のあとをつけてみることにしました。
女は林をぬけ、となり村へと歩いていきます。
そこは、
「はっ、はかだ!」
はか場の中に、どんどん入っていくと、女のすがたは、スーッと消えてしまったのです。
二人はお寺にかけこみ、和尚(おしょう→詳細)さんにこれまでのことを話しました。
「そんなばかなことがあるものか。きっと見まちがいじゃろう」
と、和尚さんはいいながらも、いっしょにはか場へいってみることにしました。
すると、かすかに赤んぼうの泣き声が聞こえてきます。
声のほうにいってみると、
「あっ、人間の赤んぼうじゃないか! どうしてこんなところに?」
ちょうちん(→詳細)の明かりにてらしてみると、そばに手紙がそえられています。
それによると、赤んぼうは、すて子でした。
「すてられて何日もたつのに、どうして生きられたんじゃろう」
ふと見ると、あの女の人がまいばんアメを買っていったうつわが、赤んぼうの横にころがっていたのです。
赤んぼうのそばのはかを見ると。
「おお、これは、このまえ死んだ松吉の女房のはかじゃ!」
なんと、ゆうれいが人間の子どもを育てていたのです。
「アメを、食べさせていたんですなあ」
それも、自分の村では顔を知られているので、わざわざとなり村まで買いにいったのでしょう。
自分のはかのそばにすてられた赤んぼうを、見るに見かねたにちがいありません。
「やさしいほとけさまじゃ。この子は、わしが育てるに、安心してくだされ」
こうして、おはかにすてられた子は、ぶじ、和尚さんにひきとられました。
そして、あの女の人がアメ屋さんにあらわれることは、もう二度とありませんでした。
おしまい
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