8月27日の日本の昔話
弓の名人と二羽のツル
熊本県の民話
むかしむかし、ある村に、正直で働き者のお百姓さんと息子がいました。
息子は弓の名人で、どんな鳥でも射落とす事が出来ました。
ある年の事。
「よく働いたおかげで、今年も豊作だ」
と、喜んでいると、一晩のうちに田んぼがふみあらされて、せっかくの稲がメチャクチャになってしまいました。
「だれが、こんなひどい事を!」
次の晩、怒った息子は弓と矢を持って、田んぼのすみにかくれました。
夜中頃、ふいに風がふいてきたかと思うと、とつぜん美しい二人の娘があらわれて、稲をふみながらおどりはじめました。
(なんて、きれいな娘だ)
息子はしばらくの間、文句を言うのも忘れて見とれていました。
それでも二人がおどるたびに、稲はメチャクチャになってしまいます。
(許せねえ!)
息子は弓に矢をつがえて、飛び出しました。
「やいやい! 何のうらみがあって、おらの田んぼを荒らすんだ。おどりをやめなければ、この矢を胸に打ち込むぞ!」
そのとたん、二人の娘はおどりをやめて、息子の前にきて頭を下げました。
「どうかお許しください。実はあなたにお会いしたくて、おどっていたのです」
「何、おらに会うためだと?」
「はい、こうして人間の姿になっていますが、わたしたちは実はあの山に住むツルでございます。ある日、一羽の大ワシがやってきて、私たちの仲間を次々と殺し始めたのです。このままでは、みんな大ワシに食われてしまいます。あなたは弓の名人と聞きます。どうか私たちを助けると思って、大ワシを退治してください」
そう言うと、二人の娘はツルの姿にもどりました。
「そうか。よし、わかった。おらにまかせておけ」
「それでは、わたしの背中に乗ってください」
息子が一羽のツルの背中に乗ると、もう一羽のツルが先頭になって、山へ向かって飛んでいきました。
ツルの背中からおりた息子が岩かげにかくれていると、大ワシがゆっくり羽を動かしながら飛んできました。
(あの大ワシだな。・・・今だ!)
息子は大ワシに狙いを付けて、矢を放ちました。
すると矢は風を切って、大ワシののどを見事につらぬきました。
「ギャォォーー!」
大ワシはものすごい叫びとともに落ちてくると、頭から岩にぶちあたりました。
それを見た二羽のツルは、飛び上がって喜びました。
そして、あちこちにかくれていたツルの仲間も飛び出してきて、息子のまわりをうれしそうにはねまわりました。
息子がツルの背中に乗って田んぼへもどってくると、ふみ荒らされたはずの稲は元通りになっていて、黄金色のほがゆらゆらとゆれていました。
それから、どんなひどい天気の年でも、この田んぼだけは大豊作だったということです。
おしまい
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