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8月29日の日本の昔話

お坊さんにだまされたキツネ

お坊さんにだまされたキツネ
山梨県の民話

 むかしむかし、ある村はずれに、一匹のキツネがすんでいました。
 とてもずるがしこいキツネで、村の人たちをだましては、魚やあぶらあげをとっていました。
 中でも一番よくとられるのは、お坊さんでした。
 村の家へお経をあげに行くたびに、もらってくるごちそうをキツネにだましとられていました。
 このキツネはまるで人間そっくりに化けるので、ついだまされてしまうのです。
 ある日の事、お坊さんは道ばたで、昼寝をしているキツネを見つけました。
(よし、今日は、こっちがキツネをだましてやろう)
 お坊さんは、寝ているキツネの肩をたたいて言いました。
「だんなさん、だんなさん」
 キツネはびっくりして飛び起きると、あわてて金持ちのだんなに化けました。
「だんなさん。こんなところで寝ていると、キツネにだまされますよ。どうです? 二人で料理屋へごちそうを食べに行きませんか?」
「ごちそう? そいつはいいですね」
 キツネは大喜びで、お坊さんと一緒に町の大きな料理屋へ行きました。
「さあ、どんどん食べて、じゃんじゃん飲んでくださいよ。いつもお世話になっているお礼に、今日はわたしがごちそうをしますから」
 お坊さんは、おいしい料理やお酒をどんどん運ばせて、自分もせっせと食べたり飲んだりしました。
「いやあ、すまんのう」
 だんなに化けたキツネも、お坊さんに負けずと料理を食べてお酒を飲みました。
 やがて、すっかりお腹が一杯になったお坊さんは、
「ちょっと失礼して、小便に行ってきます」
と、言って、部屋を出ました。
 それから、女中さんを呼んで言いました。
「わしは、まだこれから行くところがあるので、すまんが大急ぎで、おみやげを作っておくれ」
「はい」
 女中さんが、おみやげの料理を持ってくると、
「そうそう、代金は食べた分と一緒に、だんなさんからもらっておくれ」
と、言って、さっさと帰っていきました。
 さて、部屋に残されたキツネは、
(ずいぶんと、長いおしっこだなあ)
と、思いながらも、一人でお酒を飲んでいました。
 しかしお坊さんは、いつまでたってももどってきません。
(おかしいな。何をしているのかな?)
 キツネはだんだん、心配になってきました。
 そのうちにほかのお客さんはみんな帰ってしまい、残っているのはキツネだけになりました。
 そこへ女中さんがきて、言いました。
「だんなさん、申し訳ありませんが、そろそろお店も終わりますので」
「そうか。ところでわしのつれのお坊さんはどうした?」
「はい。もう、とっくにお帰りになりました」
「なんだと! 帰っただって!」
「そうですよ。料理とおみやげのお金は、だんなさんからいただくように言われました」
(しっ、しまった。坊さんにだまされた!)
 キツネは、あわてました。
 はやく逃げ出したいのですが、お金をはらわないと料理屋を出ることができません。
 でもキツネは、一文無しです。
(どうしよう、どうしよう。困ったぞ)
 おろおろしているうちに、うっかり変身がとけてしまい、キツネの姿にもどってしまいました。
「あっ、キ、キツネ!」
 女中さんが大声で叫ぶと、その声を聞いて、お店の人たちがかけつけてきました。
「人間に化けてただ食いするなんて、とんでもないキツネだ!」
「さあ、逃がすもんか!」
 お店の人たちは、棒やほうきでキツネをなぐりつけました。
「た、助けてくれえー」
 キツネは店の中をぐるぐると逃げまわり、やっとのことで天井裏から外に飛び出しました。
「それにしても、ひどいお坊さんだ。キツネを連れてくるなんて」
 次の日、料理屋の主人はお坊さんのところへお金をとりに行きました。
 ところがお坊さんは、すました顔で言いました。
「そいつはお気の毒な。でもわしは、お前さんの店なんかに行ったことがないよ。きっとそのお坊さんも、キツネが化けていたんだろうよ」
 それを聞いた料理屋の主人は、
「あのキツネめ。今度見つけたら、ただではおかないぞ!」
と、言って、くやしがりました。

おしまい

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