きょうの日本昔話
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9月15日の日本の昔話

天の羽衣

天の羽衣

 むかしむかし、山のすその村に、いかとみという、狩人(かりゅうど)が住んでいました。
 よく晴れた、春の朝のことです。
 いかとみは、いつものように、けものをさがしに山を登っていきました。
「いい朝だなあ」
 いかとみが空を見上げると、さっきまですみきっていた青空に、いつの間にか白いかすみのようなものが、いくえにもたなびいています。
 見つめていると、ふしぎなことに、かすみはフワフワと空をとんでいるのです。
「あっ、あれは白鳥か。八羽もいるぞ」
 いかとみは、いそいで湖に近寄りました。
 すると、湖で泳いでいるのは白鳥ではなく、今まで見たこともないほど美しい、八人の乙女たちだったのです。
 いかとみがふと、あたりを見回すと、少しはなれた松の枝に、まっ白い布が、かけてあります。
「なんてきれいな着物だろう。これはきっと、天女(てんにょ→詳細)の着る羽衣(はごろも→詳細)にちがいない。持って帰って家宝(かほう)にしよう」
 いかとみは、そのうちの一枚をふところにしまいました。
 やがて、水浴びをしていた天女たちが水からあがると、羽衣を身につけて空に舞い上がっていきました。
 でも、1人の天女だけが、その場に取り残されてしまいました。
 いかとみが彼女の羽衣を取ってしまったため、天に帰れないのです。
 シクシク泣きくずれる天女の姿に、心を痛めたいかとみは、天女に羽衣をさし出しました。
「まあ、うれしい。ありがとうございます」
 ニッコリほほえむ天女に、すっかり心をうばわれたいかとみは、羽衣を返すのを止めました。
「この羽衣は返せません。それよりも、わたしの妻になってください」
 天女は何度も返して欲しいと頼みましたが、いかとみは返そうとしません。
 しかたなく、天女はいかとみの妻になりました。
 そして、三年が過ぎました。
 いかとみと天女は、仲良く暮らしていましたが、天女はいつも、天にある自分たちの世界に帰りたいと思っていました。
 ある日、いかとみが狩りに出かけたときのこと、天女は家のそうじをしていました。
 そして、天井裏に黒い紙つつみがあるのに気づきました。
 その紙つつみを開けてみますと、あの羽衣が入っていました。
「・・・どうしよう?」
 天女はなやみました。
 天女は、いかとみと暮らすうちに、いかとみの事が好きになっていたのです。
 でも、天の世界に帰りたい。
 このままいかとみの妻として、地上で暮らすか、それとも天の世界に帰るか。
 さんざんなやみましたが、天女は帰ることにしました。
 そのころいかとみは、獲物をたくさんつかまえたので、その獲物を町で売って、天女のために、きれいなクシを買って帰る途中でした。
 ふと空を見上げると、いかとみの妻の天女が、天に帰る姿が見えました。
「あっ、まっ、まさか! おーい、待ってくれー!」
 いかとみは、力の限り天女を追いかけましたが、そのうち、天女の姿は見えなくなってしまいました。

おしまい

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