10月7日の日本の昔話
ふしぎなたいこ
むかしむかし、げんごろうさんという人が、ふしぎなたいこを持っていました。
ひらベったい形のたいこです。
表側をトントンたたいて、
「鼻、高くなあれ。鼻、高くなあれ」
と、いうと、鼻が高くなります。
反対に、裏側をトントンたたいて、
「鼻、低くなあれ。鼻、低くなあれ」
と、いうと、鼻が低くなります。
げんごろうさんは、人にたのまれると、トントンと、たいこをたたいて、鼻を高くしたり低くしたりしてあげました。
ところがある日のこと、げんごろうさんは、ちょっといたずらをやってみたくなりました。
「トントントントンと、どこまでもたいこをたたいたら、おれの鼻はどこまでのびるのかな。どれ、ためしてみようか」
そこで、ひとりでたいこを持って、原っぱへいってトントントントン、たたきました。
「鼻、高くなあれ。鼻、高くなあれ」
すると、鼻はニョキニョキとのびて、腕の長さぐらいになりました。
トントントントン、トントントントン。
たたくたびに鼻はのびて、木よりも高くなりました。
トントントントン、トントントントン。
山より高くなりました。
トントントントン、トントントントン。
そしてとうとう、鼻の先が白い雲に届きました。
雲の上は天国です。
ちょうど天国の大工さんたちが、天の川の橋をかけているところでした。
そこへ、げんごろうさんの鼻が、下からのびてきたのです。
でも大工さんは、それが鼻だなんて知りません。
うっかり材木とまちがえて、橋のらんかんにしばりつけてしまいました。
さて、下の原っぱでは、げんごろうさんがビックリしています。
「あれっ! 鼻がつかえてしまったぞ。少しひっこめよう」
今度は、たいこの裏側をトントントントン、トントントントンと、たたきました。
「鼻、低くなあれ。鼻、低くなあれ」
ところが、鼻のてっペんはギュッとしばってあるので、鼻が短くなるたびに、げんごろうさんは、からだごと空へあがっていきました。
「ひゃあ、どうしてからだがあがっていくんだ!」
げんごろうさんは大あわてです。
トントントントン、トントントントン、たたいてたたいて、雲の上までのぼってしまいました。
天国ではちょうど、昼休みです。
大工さんたちは、昼ごはんを食べにいっていて、仕事場にはだれもいませんでした。
「なんだ、おれの鼻を材木とまちがえたのか。そそっかしいなあ」
げんごろうさんは、なわをほどきました。
鼻は元どおりで、やれやれです。
でも、どうやって帰ったらいいのでしょう。
「困ったなあ」
考えていると、足もとの雲が、風にふかれて動きました。
雲のすきまから、ずーっと下に、青い青い湖が見えました。
「うわー! いいながめだな。・・・ああっ!」
げんごろうさんは、足をふみはずしてしまい、まっさかさまに湖のまん中へ、
ボッチャーーン!!
と、落ちました。
何とか助かりましたが、このままではいつかおぼれてしまいます。
げんごろうさんは、岸を探して一生けんめいに泳ぎました。
ずーっと泳いでいたら、いつのまにか手と足がなくなって、さかなのようにひれとしっぽがはえました。
そしてからだには、うろこがはえました。
そしてついには、げんごろうさんは、げんごろうブナという、小さなさかなになってしまったのです。
おしまい
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