10月22日の日本の昔話
毒のナシ
和尚と小僧の笑い話
むかしむかし、ある山寺に、和尚さんととんちのきく小僧さんがいました。
このお寺の境内には、実のならないナシの木が一本あったのですが、どうしたことか、ある年、ナシの木が突然に実をつけたのです。
ナシが大好物な和尚さんはうれしくて、まだ青いうちからナシがうれる日を楽しみにして待っていました。
ところがちょうど食べ頃になった時に急用が出来て、和尚さんは出かけなくてはなりません。
それで、小僧さんを呼んで、
「あれは毒ナシだから、決して食ってはならんぞ」
と、言い聞かせて、出かけていきました。
和尚さんの姿が見えなくなると、小僧さんはナシの木の所へ行きました。
見れば見るほどおいしそうなナシで、とても毒ナシとは思えません。
とうとうがまん出来なくなって、小僧さんが棒でナシをつつくと、うれたナシの実がポトリと落ちてきました。
「しまった。・・・でも、このまま捨ててはもったいない」
そこで小僧さんが恐る恐るナシを口に入れると、それがほっぺたが落ちるほどおいしいナシだったのです。
「やっぱり。いつもながら、ずるい和尚さまだ」
毒ナシというのは和尚さんのうそだと気が付いた小僧さんは、ナシの実を一つ残らず食べてしまいました。
さて、このままでは和尚さんにひどくしかられると考えた小僧さんは、居間にかざってある和尚さんの大事な茶わんをガチャンと割って、
「わあーん、わあーん」
と、泣き真似を始めました。
やがて戻って来た和尚さんは、小僧さんが泣いているのでびっくりです。
「どうした? なぜ泣いておるんじゃ?」
すると小僧さんは、涙をふきながら答えました。
「はい、実は、和尚さまの大事な茶わんを洗おうと思ったら手が滑って、割ってしまったのです。それで死ぬより他はないと、毒ナシを食って死ぬのを待っているんです」
「なんと・・・」
これには和尚さんも、返す言葉がありませんでした。
おしまい
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