10月27日の日本の昔話
テングの羽うちわ
むかしむかし、あるところに、ふく八という男がいました。
とても、とんちのいい男でした。
ある日、ふく八はテング(→詳細)の住んでいるという、テング山へ登っていきました。
そして、大きなサイコロをころがしては、
「うわっ、見える見える、江戸が見えるぞ。京が見えるぞ」
と、おもしろそうに大声をたてました。
あまりにもおもしろそうなので、テングが、そっと出てきていいました。
「おい、ふく八、おれにもそれを貸せ!」
「いやだよ。こんなおもしろい物が貸せるかい」
「・・・おまえは、テング山ヘきて、テングさまがこわくないのか?」
「テングなんか、こわくないよ。それよりか、このサイコロがおもしろいわ。ころがしさえすれば、どこでも見える。うわっ、今度は大阪が見えるぞ」
ふり向きもしないで、ふく八はサイコロに一生けんめいです。
「おい、ふく八、そんならおまえのこわい物はなんだ?」
「おれのこわいのは、ぼたもちだ」
「へえ、あんなおいしい物を?」
「ああ、名まえを聞いただけでも、ゾゾッとする。だがテングさん、あんたは、なにがこわい?」
「おれは、トゲのあるからたち(中国原産のミカン科の落葉低木)だよ」
「しめたっ!」
「ええ、なにがしめたじゃ?」
「いや、そんなことはどうでもよい」
ふく八は、それをごまかすように、あわててサイコロをころがすと、
「うわっ、見える見える。どんなに遠い所でも、手に取るように見えるわ」
と、おどりあがっていいました。
テングは、そのサイコロがほしくてたまりません。
「おい、このテングのうちわをやるから見せろ。これであおぐと、鼻が高くなったり低くなったり、自由自在(じゆうじざい)だ」
「うそつけ、そんなことができるものか」
「よし、見てろよ」
テングは、ふく八の鼻をあおぎながら、
「ふく八の鼻、高くなれ、高くなれ」
と、いいました。
すると、ふく八の鼻はグングンのびて、向こうの山へつきそうになりました。
ふく八は困って、
「早く、元どおりにしてくれ」
と、さけびました。
「そんなら、このうちわとサイコロと、とりかえるか?」
「しかたがない、取りかえるよ。早くあおいでちぢめてくれ」
こうして、ふく八はテングのうちわを手に入れると、飛ぶようにして帰っていきました。
テングは、うれしそうに笑いながら、
「そんならひとつ、ほうぼうを見物してみようかな」
と、いって、サイコロをころがしましたが、なんにも見えません。
いくらやっても、だめです。
テングは、ふく八にだまされたことに気がついて、
「よくもだましたな! よし、あすはこの仕返しをしてやるぞ!」
と、カンカンにおこりだしました。
あくる日、テングはぼたもちをいっぱいさげて、ふく八の家ヘ出かけました。
家の回りには、テングの苦手なからたちが立ててあるので、テングは外からふく八めがけて、
「そら、こわがるがよい」
と、いって、ぼたもちを投げつけて帰っていきました。
ふく八は、ペロリと舌を出し、
「これは、ごちそうさま」
と、いって、たらふくぼたもちを食べました。
それからのち、ふく八はテングのうちわを使って、低くて困っている人の鼻を高くしてやり、高くて困っている人の鼻を低くしてやって、たいへんみんなから喜ばれたということです。
おしまい
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