10月28日の日本の昔話
たのきゅう
むかしむかし、あるところに、たのきゅうという旅の役者がいました。
おかあさんが病気だという手紙がきたので、大急ぎでもどるとちゅうです。
ところが、ある山のふもとまでくると、日が暮れてしまいました。
でも、たのきゅうは親孝行者(おやこうこうもの)だったので、早くおかあさんに会いたいと、そのまま山を登りかけました。
すると、茶店のおばあさんが、たのきゅうにいいました。
「およしなさい。この山には大きなヘビがいるから、夜はあぶないよ」
でもたのきゅうは、病気のおかあさんが心配なので、山へ登っていきました。
そして、峠(とうげ)でひと休みしていると、しらがのおじいさんが出てきていいました。
「おまえさんは、だれだ?」
「わしは、たのきゅうというもんじゃ」
と、たのきゅうは答えました。
だけど、おじいさんは「たのきゅう」を「たぬき」と聞きまちがえました。
「たぬきか。たぬきなら、化けるのがうまいだろ。さあ、化けてみろ。わしは大ヘビだ。わしも化けているんだ」
大ヘビと聞いて、たのきゅうはビックリ。
「さあ、はやく化けてみろ。それとも、化けるのがへたなのか?」
ブルブルとふるえていたたのきゅうですが、大ヘビにへたと言われて、役者だましいに火がつきました。
「まっていろ。いま、人間の女に化けてやる」
たのきゅうは、にもつの中から取り出した女のかつらと着物を着て、おどって見せました。
「ほほう、思ったよりじょうずじゃ」
と、おじいさんは、感心しました。
そして、
「ときに、おまえのきらいな物は、なんじゃ?」
と、聞きました。
「わしのきらいなのは、お金だ。あんたのきらいな物は、なんだね?」
たのきゅうも、たずねました。
「わしのきらいな物は、タバコのヤニとカキのシブだ。これをからだにつけられたら、しびれてしまう。おまえは、たぬきだからたすけてやるが、このことはけっして、人間にいってはならんぞ。じゃ、今夜はこれで別れよう」
そういったかと思うと、おじいさんの姿は、見えなくなってしまいました。
たのきゅうは、ホッとして山をおりました。
ふもとに着くと、ちょうど夜が明けました。
たのきゅうは、村の人たちに、大ヘビから聞いた話をしました。
「と、いうわけだから、タバコのヤニとカキのシブを集めて、大ヘビのほら穴に投げ込むといい。そうすれば、大ヘビを退治できて、安心して暮らせるというもんじゃ」
それを聞いて、村の人たちは大喜びです。
タバコのヤニとカキのシブを、できるだけたくさん集めて、大ヘビのほら穴に投げこみました。
「うひゃーあ、こりゃあ、たまらねえ!」
大ヘビは死にものぐるいで、となりの山に逃げ出して、なんとか命だけは助かりました。
「こりゃあ、きっと、あのたぬきのやつが、わしのきらいな物を人間どもにしゃベったにちがいない。おのれ、たぬきめ! どうするか覚えてろ!」
大ヘビは、カンカンになっておこりました。
そして、たのきゅうがいちばんきらいな物は、お金だということを思い出しました。
そこで大ヘビは、できるだけたくさんのお金を集めて、たのきゅうの家をさがして歩きました。
そしてやっと、たのきゅうの家をさがしあてましたが、戸がピッタリしまっていて、中に入れません。
「さて、どうやって入ろうか? ・・・うん?」
そのとき、大ヘビは、屋根にあるけむり出し口を見つけました。
「それえっ、たぬきめ、思い知れっ!」
大ヘビは、けむり出し口からお金を投げこんでいきました。
おかげで、たのきゅうは大金持ちになり、おかあさんの病気もなおって、しあわせに暮らしました。
おしまい
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