11月30日の日本の昔話
カブ焼き甚四郎(じんしろう)
むかしむかし、あるところに、カブを焼いて食べるのが大好きな甚四郎(じんしろう)という男がいました。
そこで村人たちは、『カブ焼き甚四郎』と呼んでいました。
でも、甚四郎は気にする様子もなく、毎日、畑でカブを作っては、そのカブを焼いて食べていました。
ある日の事、村人たちがこんな話をしていました。
「甚四郎も、嫁さんでももらえば、村の為に頑張ってくれるかもしれんなあ」
「そうだな。どこかに、いい嫁さんはいないだろうか?」
「そう言えば、朝日長者に娘がおったぞ」
そして貧乏な甚四郎のところへ嫁に来てもらうために、村人たちは朝日長者の屋敷の前で、ちょっと芝居をすることにしました。
「かぶ焼き甚四郎のお国とりー」
村人たちは、大声で長者に知らせたのです。
朝日長者はそれを聞いて、甚四郎を立派な長者だと勘違いをして、娘を嫁に行かせることに決めたのです。
「よし、うまくいったぞ」
村人たちは、大喜びです。
ところが、嫁にきた朝日長者の娘は、甚四郎の家を見てびっくり。
立派な屋敷だと思っていたのに、甚四郎の家はボロボロの掘っ立て小屋です。
それに夫の甚四郎は、毎日ニコニコとカブばかり焼いて食べているのです。
嫁さんは、そんな暮らしにがまん出来なくなり、嫁入りの時に持ってきた反物を出して言いました。
「あなた、この反物を町で売ってきて!」
「へい」
甚四郎は上等できれいな反物を持って、町へ売りに行きました。
すると、反物屋の主人は喜んで、
「これは、素晴らしい反物ですな」
と、甚四郎にたくさんのお金を払いました。
大金を手に入れた甚四郎は、家に帰る途中の畑で、わなにかかった鷹を見つけました。
「おや、かわいそうに」
甚四郎がわなをはずしてやると、鷹はバサバサと羽を広げて空へ飛んで行きました。
「鷹よ。元気でなー」
甚四郎が見送っていると、それを見た畑の持ち主が、かんかんに怒りながら走って来ました。
「この野郎! せっかく捕まえた獲物を逃がしやがって!」
甚四郎が謝っても、畑の持ち主は許してくれないので、
「では、これでかんべんしてくれ」
と、反物を売ったお金を全部あげてしまいました。
「嫁さん、怒るかな?」
甚四郎は、そう思いましたが、鷹を助けた事がうれしくて、
「まあ、何とかなるだろう」
と、のんきに口笛を吹きながら歩いていきました。
すると川の岸に、さっきの鷹がいるのが見えました。
甚四郎がかけよると、鷹は、何とカッパをおさえつけているのです。
鷹に押さえつけられたカッパは、泣きながら甚四郎に頼みました。
「助けてください。助けてくれたら、カッパの宝物の延命小槌(えんめいこづち)を差し上げます。延命小槌は、振りながら欲しい物を言うと、その願いをかなえてくれます」
それを聞いた甚四郎は、鷹に言いました。
「助けてやれや」
そのとたん、鷹はカッパを離して、空へと飛んで行きました。
「ありがとうございます」
カッパは甚四郎にお礼を言って、約束通り川の底から延命小槌を持って来ました。
さて、家に帰った甚四郎は、嫁さんを呼ぶと、さっそく延命小槌を試してみました。
「米出ろ。米出ろ」
すると本当に、小槌を振るたびにザクザクとまっ白な米が出て来るのです。
甚四郎も嫁さんも、大喜びです。
そして小槌から立派な屋敷を出して、自分たちもいい着物を着て、嫁さんの両親の朝日長者を招待しました。
招待された朝日長者は、立派な屋敷を見てびっくりです
「こんなに見事な屋敷と庭は、見たことがない」
「本当に。娘は幸せ者ですねえ。いい方にもらっていただいて」
朝日長者は、ご機嫌です。
その夜、家へ帰ろうとする朝日長者に、嫁さんがいいました。
「泊まっていかれないのですか?」
「ああ、若い二人の邪魔をしてはいけないからな」
「でも、こんなに帰る道が暗いと、わたくしどもも心配です」
すると甚四郎は、火の付いた松明を持ってきて言いました。
「なら、夜道を明るくしましょう」
そして甚四郎は、なんと自分の屋敷に、松明の火をつけたのです。
メラメラと音をたてて甚四郎の屋敷が燃えあがり、あたりが昼間のように明るくなりました。
「なんと、もったいない」
おどろく朝日長者に、甚四郎と嫁さんは、
「どうぞ気になさらずに。朝日長者のお屋敷に着く頃まで、わたくしどもの屋敷は燃え続けて明るいでしょう。さあ、ゆっくりとお帰りください」
と、笑いながら見送ったそうです。
おしまい
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