12月25日の日本の昔話
凍ってしまった声
長野県の民話
むかしむかし、とても寒い国がありました。
毎日毎日、雪が降り続くので、家は屋根まですっぽり雪の中にうずまってしまいます。
だから雪の中にトンネルを作って、家と家の間に、ふしをとった長い竹筒をさしこんで電話のように使います。
ある寒い寒い年のこと、一軒の家でおだんごを作りました。
とてもおいしかったので、となりの家の人にもごちそうしてやろうと思い、そこで竹筒に口をあてて、
「もしもし、おだんごを作りましたので、食べにきてください」
と、言いました。
ところが、いくらよびかけても返事がありません。
「なんだ。せっかくごちそうしてやろうと思ったのに」
おだんごを作った家の人はすっかり腹をたてて、全部自分のところで食べてしまいました。
やがて長い冬もすぎて、雪のとける季節になりました。
ある日、竹筒の中から、
「もしもし、おだんごを作りましたので、食べにきてください」
と、言う声が聞こえてきました。
それを聞いたとなりの家の人は喜んで、さっそくおよばれに行きました。
ところが、
「今ごろ、何を言っているのです」
と、言われてしまいました。
「いや、さっきたしかに『おだんごを作りましたので、食べにきてください』と言いましたよ」
「はい、たしかに言いました。でもそれは、去年の事です。その時は返事もしないで、今ごろ来ても」
「とんでもない。わたしたちが聞いたのは、今さっきだ」
とうとう、となりどうしでけんかになってしまいました。
するとそこへ、近所のお年寄りがやってきました。
「まあまあ、どっちも落ち着いて。ところで何を言い合っているんだ?」
そこで二人が、お年寄りにわけを話すと、
「あははは。なんだ、そんなことか。それはな、今年の冬は特別に寒かったので、声が竹筒の中でこおりついてしまったのじゃよ」
と、言いました。
「それなら、どうして今ごろ聞こえてくるのです?」
「決まってるじゃないか。あったかくなったので、こおりついた声もとけてきたのじゃよ」
「なるほど」
けんかをしていた二人は、やっとなっとくしました。
「いや、そうとは知らないで、腹をたててすみませんでした」
「いえいえ、こちらこそすみませんでした」
そこでもう一度おだんごを作って、あらためてとなりの家の人にごちそうしたのです。
おしまい
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