12月30日の日本の昔話
うぶめにもらったかいりき
むかしむかし、ある北ぐにの町に、こんなうわさがひろまっていました。
「お城のおほりばたの、ふるいやなぎの木のあたりに、あかんぼうをだいた、うぶめのばけものがあらわれるそうじゃ」
うぶめというのは、あかちゃんをうむときに、死んでしまった女の人のおばけです。
「いつも、両手(りょうて)であかんぼうをだいているため、みだれたかみの毛をととのえることができん。そこで、とおりかかった人に、『かみの毛をととのえるあいだだけ、あかんぼうをだいていてもらいたい』と、たのむんじゃ。ところが、このあかんぼうも、おそろしいばけもの。だかれているうちに、ズンズン大きくなって、ついには人をのみこんでしまうのだと。くわばら、くわばら」
うわさがひろまると、町の人たちは夕方から戸をしめて、はやくねるようになりました。
そのため、お城のおほりばたは、よるになるとだれひとりとおるものがありません。
そんなあるばんのこと。
お城のようじで、かえりのおそくなったさむらいが、はやく家にかえろうと、おほりばたをとおりかかりました。
なまえを左内(さない)といいます。
左内は体が小さいことから、
「ちびすけ左内」
と、なかまにからかわれていました。
ところが、左内は度胸(どきょう)があり、いつもおちつきはらっていました。
だから、うぶめのおばけがあらわれるというおほりばたも、へいきであるいていきました。
左内があるいていくと、
「もし、おさむらいさま」
おほりばたの、ふるいやなぎの木の下から、白いきものすがたの女が、あかんぼうをだいてあらわれました。
(これがうわさにきく、うぶめだな)
左内はあわてず、おちつきはらっていいました。
「なにか、わしに、ようでもあるのかな?」
「はい、かみの毛をととのえるあいだだけ、ちょっと、この子をだいていただくわけにまいりませんか」
「そんなことなら、おやすいごよう。ゆっくりと、かみをとかすがよい」
左内は、うぶめからあかんぼうをうけとりました。
あかんぼうは、かわいい女の子です。
口には、おしゃぶりをくわえていました。
「なかなか、めんこいあかんぼうじゃな。よしよし、ほらほら」
左内があかんぼうをあやしていると、だんだん、おもたくなっていきました。
からだもグングンと大きくなって、石のようなおもさです。
あかんぼうのかおつきは、からだが大きくなるにつれて、おそろしくなってきました。
いまにも、左内にくいつきそうです。
「これはいかん!」
左内は刀をぬくと、やいばをあかんぼうにむけて、口にくわえました。
あかんぼうはさらに大きくなりましたが、刀のやいばにじゃまされて、こんどは小さくなりました。
そして、大きくなったり小さくなったりを、なんどかくりかえしました。
刀のやいばがなければ、あかんぼうは、ひとおもいに大きくなって、左内におそいかかったにちがいありません。
そのうちに、うぶめが、
「ありがとうございました。おかげで、このように、かみをととのえることができました」
と、ほほえみました。
みだれていたかみの毛が、きちんと、ととのえられています。
うぶめは、あかんぼうをうけとると、
「おれいに、なにをさしあげましよう」
と、左内にたずねました。
「いや。べつにれいなどいらんが」
左内がことわろうとすると、うぶめはニッコリして、
「お気づきでしょうが、わたしはこの世の者ではありません。どんな願いもかなえられます」
「そうか。では、遠慮なしに」
左内は少し考えてから言いました。
「わしはごらんのとおり、ちびすけ。なかまから、わらいものにされている。なにかもらえるなら、カをさずかりたいな。三十人力でも、五十人力でもよい」
左内がたのむと、
「それならば、五十人力をあげましょう」
うぶめはそういって、フッときえました。
しばらくたった、ある日のこと。
お城に、江戸のすもうとりがやってきました。
すもうのだいすきな殿さまが、よびよせたのです。
殿さまは、けらいにいいつけて、すもうとりたちとすもうをとらせました。
けれど、だれひとりかてません。
あいてがすもうとりとはいえ、さむらいがコロコロとなげとばされて、なさけないかぎりです。
「だれか、かてるものはおらんのか?」
そこで左内が、
「それがしが、やってみましょう」
と、きものをぬいだので、殿さまも、ほかのけらいたちもビックリです。
「左内ではむりむり。大けがどころか、死んでしまうぞ」
殿さまがとめましたが、左内は、ふんどしひとつで土ひょうにあがると、いちばんつよいすもうとりとたたかって、
「どりゃあ!」
頭よりも高く、すもうとりをもちあげました。
そして、
「そりゃあ!」
大きなすもうとりを、ドスーン! と、なげとばしたのです。
「みごと! みごと! あっぱれじゃ!」
殿さまは大よろこびです。
「左内よ。ほうびとして、さむらい大将にしてやろうぞ」
こうして左内は、えらいさむらいにとりたてられたということです。
おしまい
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