きょうの日本昔話
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12月30日の日本の昔話

西宮エビスは丹後の泣きエビス

西宮エビスは丹後の泣きエビス
京都府の民話

 むかしむかし、幸助という漁師が住んでいました。
 幸助は小さい頃から身体が弱かったので、健康のために毎朝浜を歩くことにしていたのです。

 そんなある朝、幸助がいつもの様に浜を歩いていると、何かキラキラ光り輝く物が浜に打ち上げられています。
「なんだろう?」
 幸助が近寄ってみると、それは夕べの荒波で打ち上げられた小さなエビスさまの像だったのです。
「これは立派なエビスさまだ」
 幸助はエビスさまの像を家に持って帰って供えましたが、ボロ屋に立派なエビスさまは似合いません。
 そこで幸助は村はずれのお宮さんに、エビスさまをまつったのです。

 それからしばらくしたある日、旅の僧がこの村を訪れましたが、長旅であまりにも薄汚れていたので誰も相手にしてくれません。
 そこで仕方なく村はずれのお宮さんに泊まる事にしたのですが、入ってみると何かがキラキラと光り輝いています。
 見てみるとそれは、幸助が納めた金色のエビスさまだったのです。
「これは、良い物を見つけたぞ」
 旅の僧は周りに誰もいない事を確かめると、そのエビスさまを盗んでそのまま逃げてしまいました。
「よし、誰も来ていないな。なかなか、良い物が手に入ったわい」
 旅の僧が、満面の笑みを浮かべながら道を歩いていると、
「丹後へ返りたい、丹波へ返りたい」
と、小さな声が聞こえたのです。
「誰だ!」
 旅の僧は振り返りましたが、誰もいません。
「おかしいな。気のせいか?」
 そして再び歩き出すと、
「丹後へ返りたい、丹波へ返りたい」
と、また小さな声が、聞こえたのです。
「誰だ! 誰かいるのか!?」
 旅の僧は用心深く辺りを見回しますが、やはり誰もいません。
 でも小さな声は、それからも、
「丹後へ返りたい、丹波へ返りたい」
と、言うのです。
 そんな事が三日間続いたので、すっかりまいってしまった旅の僧は、ふとその声が自分の背負っている荷物の中から聞こえてくる事に気づいたのです。
「もしや、あのエビスさまが?」
 そう思った旅の僧は、盗んだエビスさまを取り出してみました。
 するとエビスさまは、はっきりと、
「丹後へ返りたい、丹波へ返りたい」
と、言って、その後、
「ウェーン、ウェーン」
と、泣き出してしまったのです。
「これは、とんでもない物を盗んでしまったな」
 旅の僧はエビスさまを盗んだ事を後悔しましたが、今さら持ち帰っても盗人として捕まるだけです。
「かといって、魂が宿っているエビスさまを、すてるわけにもいかないし」
 そこで旅の僧は西宮までやって来ると、近くの神社にエビスさまを納めてどこかへ行ってしまいました。

 その後、このエビスさまをまつってある神社が商売にご利益があると商人たちが集まることで有名になり、やがて今の西宮エビス神社になったのです。

おしまい

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