1月3日の百物語
雨がしょぼしょぼと降る晩
むかしむかし、雨がしょぼしょぼと降る晩の事、旅の商人が宿屋を見つけました。
「夜分遅くすみませんが、一晩、泊めてください」
商人が頼むと、宿屋の主人が言いました。
「今日は満室なので相部屋になりますが、それでもよろしゅうございますか?」
「はい、かまいませんよ」
「そうですか。では」
商人が案内された部屋には、旅のお坊さんがいました。
「一晩、よろしくお願いします」
商人はお坊さんにあいさつをすると、お風呂に行きました。
そして商人がお風呂から帰って来ると、お坊さんが財布のお金を数えていました。
お坊さんの財布には、小判が何枚も光っています。
(坊主のくせに、ずいぶん持っとるもんじゃのう。あれだけあれば、しばらくは働かなくとも・・・)
商人は、お坊さんの小判が欲しくなりました。
そこでその晩おそく、商人は寝ていたお坊さんを殺して小判を奪うと宿屋から逃げました。
商人は遠くの町へ行くと、そのお金で小さな店を持ちました。
やがて店は大きくなり、何人もの人をやとうほどにまでなりました。
ある日、町の長者が商人に言いました。
「あんたもそろそろ、お嫁さんをもらってはどうだね。良い娘を紹介するよ」
そこで商人は長者の紹介で、かわいいお嫁さんをもらいました。
やがて商人とお嫁さんの間に、男の子がうまれました。
けれど男の子は三つになっても、口をきこうとしません。
ところが、雨がしょぼしょぼと降る晩の事、
「おとう、小便」
と、男の子が初めてしゃべったのです。
商人は喜んで、
「おう、息子が口をきいたぞ! よしよし、小便だな。すぐに連れて行ってやろう」
と、男の子を抱きかかえて、かわや(→トイレ)へ連れて行きました。
そして商人が、男の子におしっこをさせていると、
「おとう。あの日も、雨がしょぼしょぼと降る晩だったなあ」
と、男の子が大人の様な声で言ったのです。
「なにを言っているのだ、お前は。・・・あっ!」
男の子の顔を見た商人は、びっくりして声を出せなくなりました。
なんと男の子の顔が、あの時の旅のお坊さんの顔になっていたのです。
お坊さんの顔をした男の子は、商人をにらみつけると言いました。
「宿屋でわしを殺したのも、こんな雨がしょぼしょぼと降る晩だったなあ。今こそ、うらみをはらしてやる!」
お坊さんの顔をした男の子は、怪力で雨が降る暗闇に商人を引きずり込みました。
商人と男の子は、それから二度と姿を見せなかったそうです。
おしまい