1月8日の百物語
お坊さんに化けた古ダヌキ
福井県の民話
むかしむかし、あるいなかのお寺に、一人のお坊さんがやって来ました。
京の都からやって来た立派なお坊さんだというので、お寺には村中の人たちが集まりました。
「きっと、ありがたいお話を聞かせてくださるに違いない」
「おとなしく聞かないと、ばちがあたるぞ」
村人たちはお堂の中に並んで座ると、お坊さんが出て来るのを、今か今かと待っていました。
やがて一人のお坊さんが出て来て台の上にあがると、仏さまのお話を始めました。
ところが不思議な事に、このお坊さんの耳が動物の様にピクピクと動くのです。
ちょうどその頃、村の宿屋に泊まっていた猟師が、
(京の都から来たという、立派なお坊さんを見てやろう)
と、お寺へやって来ました。
話が始まっていたので猟師はお堂の中には入らず、しょうじに指で穴を開けると中をのぞきました。
(ほほーう。立派な着物を着ているし、顔立ちもなかなかのものだ。・・・おや?)
お坊さんの耳がピクピク、ピクピクと、動物の様に動くのを見て、猟師はビックリしました。
よく注意してお坊さんを見てみると、ときどき顔の上に、スーッと毛がはえるのです。
(こいつは、きっと)
猟師は急いで宿屋に戻ると、鉄砲を持って来ました。
そしてしょうじの穴から鉄砲の先を差し込むと、お坊さんに狙いをつけて、
ズドーン!
と、撃ちはなったのです。
そのとたん、お坊さんは台の上から転がり落ちました。
「誰だ! いま鉄砲を撃ったのは!」
お堂の中は、大騒ぎです。
「お前は、宿屋に泊まっている猟師だな!」
「何て事をするのだ! 頭でもおかしくなったのか!」
「よりにもよって、お坊さまを撃つなんて!」
みんなはいっせいに、猟師を取り囲みました。
「ま、待て!」
猟師が、言いました。
「よく聞け! あいつは、お坊さんなんかじゃない。人をだまして食い殺す、恐ろしい古ダヌキだ。うそだと思うのなら、よく見てみろ」
そう言われて村人たちは、いっせいにお坊さんのところへかけよりました。
しかし胸を撃たれたお坊さんは、あおむけになって死んだままです。
「何が古ダヌキだ。これは間違いなく、立派なお坊さまだ」
「いいや、間違いなく古ダヌキだ。朝までには、きっと正体を現すはず。万一、本当のお坊さんであったなら、わしを殺してもかまわん」
そのうちに、だんだんと夜が明けてきました。
すると、どうでしょう。
お坊さんの足先から、けものの様な毛が生えてきて、みるみるうちに体中が毛だらけになりました。
そして最初のニワトリが鳴き出した頃には、とても大きな古ダヌキの姿に変わったのです。
「本当にタヌキだ。猟師の言う通りだ」
「この人がいなかったら、わしらはどうなっていた事か」
村人たちは猟師に感謝すると、古ダヌキの死体を山に埋めたという事です。
おしまい