1月9日の百物語
ウメの実になったお化け
福岡県の民話
むかしむかし、あるところに、化け物屋敷と呼ばれる家がありました。
おそろしいお化けが出るというので、日が暮れると誰も近寄りません。
ところが、このうわさを聞いた侍が、
「何と情けない。お化けぐらい。わしが退治してくれよう」
と、言って、お酒の入ったひょうたんを腰にぶら下げると、化け物屋敷へと出かけました。
長い間、人が住んでいないので、庭には人間の背丈(せたけ)ほどもある草がぼうぼうに生えて、ザワザワと風にゆれています。
雨戸(あまど)は破れて、床のあちこちが抜け落ち、天井はクモの巣だらけです。
普通の人ならすぐに逃げ出すところですが、さすがは勇気のある侍、一番広い座敷(ざしき)のまん中に座ると、腰のひょうたんのお酒をチビリチビリと飲み始めました。
しかし、いつまでたってもお化けが出てきません。
「何をグズグズしておるのだ。早く出て来い!」
侍が怒鳴りましたが、物音一つ聞こえません。
そのうちに夜がふけて夜中になると、どこからともなく生温かい風が吹いてきて、
♪ヒューーー、ドロドロドロドロー。
と、一つ目小僧が現れたのです。
一つ目小僧は長い舌を出したり引っ込めたりしながら、侍の周りをゆっくりまわります。
でも、侍は平気です。
「なんだ、一つ目小僧など、ちっとも怖くないぞ。もっと怖いお化けはいないのか?」
すると今度は口が耳まで裂けて、キバをむき出したお化けが出て来ました。
「何だ、まるでオニの出来そこないだな。ツノがなくては、怖くないぞ」
侍がからかうと、今度は本物のオニが出て来ました。
「ほほう。少しはマシになったが、しかしオニなど、珍しくもなんともない」
それを聞いて、ろくろ首、カラカサお化け、大入道などが、次々と出て来ました。
それでも侍は、平気な顔で言います。
「ただ出て来るだけとは、芸がない。さあ、ろくろ首もカラカサお化けも、みんな踊れ、踊れ」
「・・・・・・」
困ったお化けたちは、仕方なく踊り始めました。
「それ。いいぞ、いいぞ」
侍はお酒を飲みながら、うれしそうに手拍子をうちます。
そのうちに、お化けたちの姿が消えて、座敷一面に花が咲きました。
ウメやモモやサクラの花が咲き乱れ、まるでお花見をしている気分です。
「こいつは、きれいだな」
さすがの侍も、その美しさには目を見張りました。
お酒をちびりちびりと飲んいた侍は、お酒のさかながほしくなりました。
そこで、
「何か、酒のさかなになる様な物を出してくれないか。たくあんでも、ウメボシでもいいんだが」
と、言いました。
すると美しい花がパッと消えて、小さなウメの実になって転がりました。
侍は、そのウメの実をすばやく口に入れるると、
ガリガリッ
と、かみくだいて、お酒と一緒に飲み込んでしまいました。
その後、この屋敷にはもう二度と、お化けが出なくなったという事です。
おしまい