1月13日の百物語
幽霊を背負った若者
京都府の民話
むかしむかし、京の町のある墓場に、不思議な墓石が二つありました。
その一つの墓石は、夜になると青白い幽霊火に包まれます。
そして、もう一つの墓石は夜になると、
「おそろしや〜、おそろしや〜」
と、女の人の泣き声をはなつのです。
だから日が暮れると、この辺りには誰一人近づきません。
ある日の事、若者たちが集まって、
「誰か、あのおそろしい墓石まで行って、不思議の謎を解く者はおらんか?」
と、言いました。
すると、武芸の心得がある一人の若者が進み出て、
「よし、おれが行こう」
と、さっそく、墓場へ出かけて行きました。
あたりは真っ暗な上、しょぼしょぼと雨も降り出してきました。
「正直怖いが、何が出ようとも、決して逃げ出してはいかんぞ。わかったな」
若者は何度も自分にそう言い聞かせて、恐る恐る墓場に入って行きました。
すると、うわさ通り、
「おそろしや〜、おそろしや〜」
と、墓石から女の人の声が聞こえて来たのです。
しかし若者は勇気を出すと、その墓石に向かってたずねました。
「一体、何が恐ろしいのだ? よければ、おれがわけをきこう」
すると墓石から、美しい女の幽霊が現れて言いました。
「はい。
実はこの世に、勇気のある人がいるかどうかを確かめようと、こうして毎晩出ているのです。
あなたに勇気があるのなら、あそこに燃えている墓石のところまで、わたしを連れて行ってくださいな」
たとえ幽霊でも、相手が美人なら怖くありません。
若者はうなずくと、
「わかりました。では、まいりましょう」
と、幽霊の手を引いて、幽霊火が燃えている墓石まで連れて行ってやりました。
すると女の幽霊は、
「しばらく、待っていてください」
と、燃えている墓石の中に、すーっと消えてしまいました。
しばらくすると墓石の中で、何やら幽霊同士の話し声が聞こえてきます。
やがて墓石から出て来た女の幽霊は、さっきの美人とはうってかわって、見るも恐ろしい般若(はんにゃ)の顔でした。
さすがの若者も、全身の震えが止まりません。
女の幽霊は、
「わたしを再び、墓石まで、おんぶしてくださいな」
と、若者の首に、氷の様に冷たい手を巻きつけてきました。
若者は怖さのあまり、気を失いかけましたが、
(ここで気を失っては、男の恥! しっかりするんだ!)
と、勇気をふりしぼって、幽霊を背負いました。
やがて元の墓石に戻って若者が幽霊をおろすと、幽霊は元の美人に戻って言いました。
「ありがとうございます。
あなたの様な勇気のある人に会う事が出来、もう思い残す事はありません。
さあどうぞ、この袋をおとりなさい」
と、若者に小さな袋を手渡して、墓石の中に消えてしまいました。
若者は急いで仲間のところに駆け戻ると、さっきの墓場での出来事を話して、幽霊からもらった小さな袋を開けてみました。
するとその袋の中には、金貨や銀貨が何枚も入っていたという事です。
おしまい