1月15日の百物語
黒姫物語
長野県の民話
むかしむかし、志賀(しが)の大沼池(おおぬまいけ)というところに、大蛇が住んでいました。
ある日の事、大蛇は中野の城の黒姫(くろひめ)という、美しい姫を好きになったのです。
そこで大蛇は若侍に姿を変えて城を訪れ、城主の高梨摂津守(たかなしせっつのかみ)に、
「姫を嫁に欲しい」
と、お願いしたのです。
しかし摂津守は、その願いを聞き入れようとはしません。
そこでたまりかねた若侍は、ついに自分の正体を明かして、
「わしの本当の姿は、大沼池の主である大蛇じゃ。是が非でも、姫が欲しい!」
と、言ったのです。
驚いた摂津守は、何とかして大蛇の願いを退ける手はないかと考え、
「よし。それでは、わしの馬の後から城の周りを二十一周り出来れば、姫をお前の嫁にやる事にしよう」
と、約束したのです。
約束の当日、城の周りには蛇が嫌がる鉄の柵が張りめぐらされて、そこに刀が何本も結びつけられました。
そして摂津守が馬を走らせると、若侍姿の大蛇はその後を追いました。
ところが馬の速さに負けまいと走る若侍は苦しさのあまり、とうとう大蛇の正体を現して、刀で傷を負いながらも馬を追いかけました。
そして傷だらけになりながらも、やっとの事で二十一周りしたのです。
「これで約束通り、姫を嫁にもらいます」
けれど摂津守は、約束を守りません。
「ええい、蛇のぶんざいで、何を言うか! 命が惜しければ、さっさと立ち去るがいい」
すると怒り狂った大蛇が、中野城下の家々を次々とこわし始めたのです。
これを見ていた黒姫は大蛇のもとに嫁ぐ決心をして、大暴れする大蛇に叫びました。
「大沼池の主さま。わたしは、あなたのもとへ参りましよう」
すると大蛇は暴れるのをやめて、黒姫を背中に乗せると、北の山へと消えてしまいました。
野尻湖(のじりこ)の西にある黒姫山(くろひめやま)の名前は、この話からつけられたそうです。
おしまい