1月21日の百物語
タヌキ憑(つ)き
京都府の民話
むかしむかし ある山里に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんが病気になったので、その日はおばあさんが山へしばかりに行きました。
しばらく山道を歩いていると、道に何か黒い物が転がっています。
「おや? あれは何でしょう?」
おばあさんが近づいてみると、それは黒く干からびたタヌキのミイラでした。
今年の冬は寒さが厳しかったので、エサを探している途中で凍え死んだのでしょう。
「まあまあ、こんなところで可哀想に」
おばあさんはそのタヌキのミイラを抱いて山を下りると、そのタヌキのミイラを海に流してやりました。
さて、それからおばあさんは家に帰ったのですが、何だかいつもと様子が違います。
「おい、ばあさん。しばかりで、疲れたのか?」
「・・・・・・」
気になったおじいさんがおばあさんに話しかけますが、おばあさんは返事もせずに、家にある食べ物を次から次へと手づかみで食べ始めました。
その食べ方は、まるで動物の様です。
怖くなったおじいさんは、友だちの和尚さんのところへ相談に行きました。
「和尚さま。ばあさんが、ばあさんが変なのです」
そこで和尚さんがおじいさんの家に行ってみると、確かにおばあさんの様子が変です。
手づかみどころか、まるでキツネかタヌキの様に、四つんばいで食べ物をバリバリと食べていました。
「これは、もしや」
和尚さんは数珠をすり合わせながら、念仏を唱えました。
するとおばあさんの影が、タヌキの影に変わったのです。
「やはり、タヌキが憑いておったか」
和尚さんはおじいさんと力を合わせておばあさんを柱に縛り付けると、近所から借りてきた犬を動けないおばあさんにけしかけました。
「うぅーっ、わんわんわん!」
すると犬に吠えられてびっくりしたおばあさんは、ころりと気絶をしてしまいました。
そして気絶をしたおばあさんから、黒いタヌキの影が出て来たのです。
和尚さんがその影に念仏を唱えると、その影はすーっと消えてなくなりました。
「よし、これで大丈夫」
その後、正気を取り戻したおばあさんから、タヌキのミイラを海に流した事を聞いた和尚さんは、
「そうだったか。
無念に死んだ動物を海に流しても、成仏出来ずに舞い戻って来る。
そして時には、さっきの様に人に取り憑く事がある。
もし動物のミイラを見つけたら、そこに穴を掘って埋めてやりなさい。
そして、運悪く動物に取り憑かれてしまったら、犬をけしかけてやると良い。
取り憑いた動物は犬を怖がって、逃げてしまうからな」
と、教えてくれたそうです。
おしまい