きょうの百物語
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2月4日の百物語

馬にされた若者

馬にされた若者

 むかしむかし、和尚さんが六人の若者を連れて山道を歩いていました。
 ところがどこで道を間違えたのか山は深くなるばかりで、とうとう日が暮れてしまいました。
「弱ったぞ。こんなところでは、野宿も出来ないし」
 そう思ってふと前を見ると、遠くに家の明かりが見えました。
「しめた。今夜はあそこで泊めてもらおう」
 和尚さんたちが先に進むと、一軒のあばら屋がたっていました。
 中をのぞくとおじいさんが一人いて、いろりに火をたいています。
「旅の者だが、道に迷って困っておる。どうか今夜一晩、泊めていただけぬか?」
 和尚さんが言うと、おじいさんはにっこり笑って、
「そりゃ、お困りじゃろ。こんな山の中なので、大したお世話も出来ぬが、とにかくあがりくだされ」
と、七人をいろりのそばに座らせて、どんどんまきをくべてくれました。
「いやー、助かりました」
 七人はほっとして、顔を見合わせました。
 すると、おじいさんがいろりにおかゆのなべをかけて、
「おいしいおかゆをつくってやろう。ちょっと待っていてくれ」
と、言って、隣の部屋へ行ってしまいました。
 その時、おじいさんがにやっと笑ったのです。
(なんだか、あやしいぞ)
 そう思った和尚さんは、戸のすきまから隣の部屋をのぞいてみました。
 するとおじいさんは、たらいの中へ土を入れ、種らしい物をぱらぱらとまいて、その上からむしろをかぶせました。
(はて? 何をしているのだ?)
 和尚さんが注意深く見ていると、おじいさんはすぐにむしろをとりました。
 すると不思議な事に、今さっき種をまいたばかりなのに、たらいの中には青々とした菜っ葉がはえていたのです。
 おじいさんはその菜っ葉をつみとりながら、小さな声でつぶやきました。
「ひっひひひひ。今日は良い日だ。一度に七頭も手に入るとはな」
 和尚さんはあわてて戸のそばを離れると、いろりのそばに座りました。
 それと同時に、菜っ葉を手にしたおじいさんが入って来て、
「そろそろ、おかゆもたけた頃だな。おかゆに菜っ葉を入れてやろう」
と、おじいさんは、なべの中に菜っ葉を入れてかき混ぜました。
「さあ、さあ、どんどん食べておくれ」
 おじいさんがおかゆを差し出すと、お腹を空かせていた若者たちは和尚さんが止めるひまもなく、おかゆを食べ始めました。
「さあ、和尚さんも、遠慮せず食べてくれ」
「はあ」
 おじいさんがしきりにすすめるので、和尚さんは食べるふりをして、おかゆをみんなふところの鉢(はち)の中へ捨てました。
「いやあ、うまかった」
「ああっ、こんなにうまいおかゆは初めてだ」
 おかゆをたらふく食べた若者たちは、すっかり満足した様子です。
「それはよかった。では、風呂がわいているから入ってくれ。せまい風呂だから、一人ずつ順番にな」
「おじいさん、何から何まですまないな。では、遠慮なく入らせてもらおう」
 まず最初に、若者の一人が風呂へ入る事になりました。
 おじいさんと一緒に若者の一人が出て行くと、和尚さんはこっそり二人の後をつけて物置のかげにかくれました。
 そして、着物を脱いだ若者が風呂場に入ったとたん、
「ひひひいーん」
と、馬の鳴き声が聞こえたのです。
 風呂場の外で待っていたおじいさんは風呂場へ飛び込みと、一頭の馬を風呂場から引き出しました。
「どうどう。今さら人間には戻れぬのじゃ。あきらめるがよい」
 おじいさんはそう言いながら、馬を馬小屋へ連れて行きました。
(まさか!)
 びっくりした和尚さんはいそいでいろりのそばに戻ると、若者たちに風呂場での事を話しました。
 けれど、若者たちに、
「そんな馬鹿な。何かの見間違えですよ」
「そうですよ。あんなに親切な人を悪く言うなんて」
と、誰も信じてくれません。
 やがておじいさんは若者たちを次々と風呂場に連れて行っては、若者たちを馬に変えては馬小屋につなぎました。

「あとは、坊主が一人か」
 おじいさんが戻ってみると、いろりのそばにいた和尚さんがいません。
 その頃、和尚さんはあばら屋を逃げ出して、山の中を走っていたのです。
「さては、気づかれたか」
 するとおじいさんは、みるみる鬼の姿に変身して、
「やい、和尚! 待たぬか!」
と、恐ろしい声で叫びながら、和尚さんを追いかけました。
 和尚さんは死に物狂いで走りましたが、まっ暗な山の中では、どこへ行けばよいのかわかりません。
「待てえー! 待てえー!」
 鬼の声は、すぐ後ろから聞こえてきます。
「ああ、もう駄目だ」
 和尚さんは思わずしゃがみ込むと、必死にお経をとなえました。
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ・・・」
 すると夜が明けて、東の空から日が登ってきたのです。
「何! もうそんな時間か! くそっ、あと少しだというのに!」
 鬼はくやしがりましたが、仕方なく帰って行きました。

おしまい

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