2月7日の百物語
いろりの精
岐阜県の民話
むかしむかし、山奥の一軒家に、お父さんとお母さんと女の子が住んでいました。
ある雨の降る寒い日、一人で留守番をしていた女の子が、いろりの火にあたりながらおやつの木の実を食べていました。
いつもはきちんと種を捨てるのですが、今日は誰もいないので、女の子はいろりの灰の中に『ぺっぺっぺ』と種をはき出しました。
そのうちに女の子は眠たくなって、うとうとと、いねむりを始めました。
それからしばらくすると、いろりの中で燃えている太い木の上に、まっ赤な着物を着た親指ほどの小人が次々と現れたのです。
それに気づいた女の子は、びっくりしながら、じっといろりの中を見ていました。
小人たちの先頭には毛のついたかさをかぶった男がいて、金の棒を振り回しています。
そのうちに、いろりの灰がむくむく動いたかと思うと、今度は、とんがった帽子をかぶった侍が槍を持って出て来ました。
続いて棒を持ったやっこさん(→江戸時代の武家の家来)たちが現れ、何かを言いながら今にも女の子に飛びかかろうとしています。
そして最後には馬に乗った狩人姿の侍たちが出てきて、女の子に弓を構えました。
「きゃあ!」
女の子は思わず、そばにあった火ばしをつかむと、木の上の小人たちを払い飛ばしました。
そのとたん、小人たちがぱっと消えました。
「よかった」
女の子が安心したのもつかの間、またもや灰がむくむくと動き出して、今度は黒くて大きな手がにゅうと現れて、女の子の手をぎゅーっとつかんだのです。
「きゃあーーー!」
女の子は一声叫ぶと、そのまま気を失ってしまいました。
やがて、仕事に出かけていたお父さんとお母さんが帰って来ました。
「大変だ。娘が倒れている!」
お父さんとお母さんは女の子を抱き起こすと、必死に介抱(かいほう)しました。
すぐに気がついた女の子は、これまでの不思議な出来事を二人に話しました。
すると、それを聞いたお父さんは、
「それはきっと、いろりの精に違いない。お前がいろりの中に種なんか捨てたりしたから、いろりの精が怒ったんだよ」
と、言って、いろりの灰の中から木の実の種を全部取り出して、きれいに掃除をしました。
それからというもの、いろりの精が出て来る事はありませんでした。
おしまい