3月12日の百物語
火の戦い
大阪府の民話
むかしむかし、京の都に住む若者が、大阪の友だちのところへ泊まりがけで出かけていきました。
都の男は友だちの家で近所の者たちとお酒をくみかわしているうちに、すっかりいい気分になりました。
「ああ、よい気分だ。なあ、ちょっと散歩に行かないか?」
「よし、行こう」
そしてみんなが心地よい夜風に吹かれながら歩いていると、百メートルほど先の暗闇に、いくつもの小さな火が燃えているのが見えました。
火は五つ六つと燃えては、一つになって消えて、またぽつぽつと現れます。
「あれは、何の火だ?」
都の男がたずねましたが、誰にもわかりません。
みんなしばらくだまって、ぼんやりと火をながめていました。
そのうちに、一人の男が言いました。
「そう言えば、むかしこの辺りで大きな合戦があったそうだ。もしかすると死んだ侍たちの魂が火の玉になって、この世に現れたのかもしれんぞ」
「へーっ、それは風流だ。なあ、もっと近くへ行かないか?」
都の男がそう言うと、他の者たちはあわてて首を横に振って、
「何が風流なものか。もしとりつかれでもしたらどうする」
と、その場から動こうとしません。
仕方なく都の男は、一人で火の近くまで行ってみました。
すると、ちょろちょろ燃え上がる火は、よく見ると侍や馬の形をしていました。
たくさんの侍たちの火は、燃えながら一つの群れとなって向こうへ攻めて行きます。
そして向こうの火とぶつかって激しくはげしくせめぎあうと、ひときわ大きく燃え上がって、すうーっと消えていきました。
するとさらに、あちこちの草むらから小さな火が燃え上がります。
またそれが侍たちの形になって、ふわふわと反対側の火へ攻めて行きました。
せめぎあいは、何度も何度も続きます。
それを見ていた都の男の目に、涙が浮かびました。
「死んでからも、こうして戦い続けるとは、侍とは悲しいものよ」
都の男は手を合わせると静かに念仏を唱え、そして大阪の友だちたちと一緒に家へ帰りました。
おしまい