3月13日の百物語
供養を願うガイコツ
京都府の民話
むかしむかし、京の町はずれの山の中に、一人のしば売りが住んでいました。
若い頃は大名につかえる侍でしたが、あいつぐ戦に嫌気がさして、侍をやめると山でかったしばをかついでは町へ売りに行く暮らしをしていました。
ある日の事、男がしばを売り終えて夜道を帰ろうとすると、ポツポツと雨が降ってきました。
「風邪でもひいてはたまらん」
男が道を急いでいると、途中の林の奥に青白い炎がポツポツと現れました。
「おや? 雨の中に火か? もしかするとく、幽霊火かもしれんな」
幽霊火とは、幽霊が現れる前に出てくる青白い炎の事です。
普通の男なら恐ろしくて逃げ出すところですが、さすがは元侍です。
男は幽霊の正体を確かめようと、林の奥へと入って行きました。
すると幽霊火が燃えていた辺りに、人の骨がいくつも散らばっています。
「戦つづきの世の中とはいえ、野ざらしとは、ずいぶんとひどいありさまだ」
男が散らばっている骨を一つ一つ丁寧に拾い始めると、不思議な事にバラバラだった骨が吸い寄せられる様に集まって一体のガイコツになり、ギシギシと音を立てながら起き上がったのです。
「な、なんと!」
起き上がったガイコツは、一体だけではありません。
良く見ると林のあちこちに、数え切れないほどのガイコツがいるのです。
「むむっ」
男は落ちていた棒を拾うと、刀の様に構えました。
「それ以上近づけば、粉々に打ち砕くぞ」
すると男の目の前のガイコツが、男に手を合わせて口をカクカクさせながら言いました。
「お願い、です。どうか、われわれ、無縁仏(むえんぼとけ)を、とむらって、くだされ。お願い、です」
「・・・・・・」
他のガイコツを見てみると、みんな同じ様に手を合わせて男にお願いをしていました。
「わかった。お坊さんをまねいて、必ず供養してしんぜる」
「恩に、きる」
ガイコツたちは安心したのか、バラバラと崩れていきました。
翌朝、男はしばを売ってつくったわずかなお金を持ってお寺に行くと、和尚に林のガイコツたちの供養をしてもらいました。
おしまい