3月17日の百物語
吼牛山(もうしやま)
長崎県の民話
むかしむかし、ある山のふもとに、とても欲張りで人使いの荒い長者が住んでいました。
この長者には、おゆきという一人娘がいます。
おゆきは父親とは違って、とてもやさしい娘で、使用人たちにもとても親切でした。
そのおゆきが、長者の牧場で働く道太郎という若者と恋仲になったのです。
ある日の事、牧場の見張りをしていた道太郎は、うっかり一頭の子牛を見失ってしまいました。
さあ、この事が長者に知れては大変です。
道太郎は必死になって子牛を探しましたが、ついに小牛は見つかりませんでした。
しょんぼりと家に帰って来た道太郎は、長者に土下座をしてあやまりました。
すると長者は、
「土下座ぐらいで、牛一頭を許してもらえると思うのか! もう一度探してこい! 見つかるまで、帰って来るな!」
と、道太郎を家から追い出したのです。
道太郎は仕方なく、まっ暗な山の中を再び子牛探しに出かけました。
そして道太郎は、そのまま帰ってはきませんでした。
おゆきは心配で、食事も喉を通りません。
「もしかすると、オオカミに襲われたのかもしれない」
そして十日目になると、おゆきはついに道太郎を捜しに家を飛び出したのです。
そしておゆきも、そのまま帰ってはきませんでした。
この時、長者はおゆきと道太郎が恋仲であった事を知り、自分はひどい事をしたと涙を流しながら後悔をしたのです。
それからしばらくすると、二人が消えた山に化け物が出るとの噂が流れました。
その化け物は人間の子どもの様なやさしい顔に黒牛の体を持っており、鳴き声も牛にそっくりだと言うのです。
人々は、おゆきと道太郎の怨念が、この化け物になったとうわさをしました。
それ以来、この山は『吼牛山(もうしやま)』と呼ばれるようになったそうです。
おしまい