3月19日の百物語
人間のことばを話したウマ
滋賀県の民話
むかしむかし、合戦(かっせん)の為に出陣(しゅつじん)していたある殿さまが、陣中(じんちゅう)で病気になってしまいました。
その日の夜ふけ、見回りをしていた家来の者が殿さまの可愛がっている二頭の馬がいる馬屋の近くで、こんな会話を耳にしました。
「ああ、今度はだめだな」
「そうだな。悲しい事だが、明日の朝までのお命だろう」
「どうせなら、戦いの中で死にたかったろうに」
「せめて殿さまが、極楽へ行ける様に祈ろう」
それを聞いて、家来はびっくりです。
(殿さまだと!? 一体誰が話しているのだ?)
家来が馬屋に飛び込むと、そこには二頭の馬以外、誰もいませんでした。
「そんなはずは、確かに馬屋から聞こえたのに」
家来がふと見ると、殿さまが可愛がっている二頭の馬の大きな目に、涙が浮かんでいました。
「・・・まさか、お前たちがしゃべっていたのか?」
やがて夜が明けると、殿さまは静かに息をひきとったという事です。
おしまい