3月21日の百物語
鬼岳(おにだけ)
長崎県の民話
むかしむかし、福江島(ふくえしま)の玉之浦(たまのうら)という所に、恐ろしい化け物が住んでいました。
化け物は夜になると若い女や子どもたちをさらって、食べてしまうのです。
村人たちは化け物を怖がって、日が暮れると誰も外に出ようとはしませんでした。
ある日の事、村の男が漁を終えて、家への道を急いでいました。
「日が暮れてきた。急がないと、化け物が出て来るぞ」
するとその時、向こうの方から大きな黒い影が現れました。
(しまった! 化け物だ!)
男はあわてて、そばの木の陰に隠れました。
そして男が恐る恐る見てみると、その黒い影は頭に太いツノが生えた赤鬼だったのです。
その赤鬼は肩に若い女をかついでいて、山へ帰って行くところでした。
男は今にも叫びたくなるのをがまんして、ガタガタと震えていました。
恐怖のあまり、歯がガチガチとなります。
その歯の音に、鬼は足を止めました。
「おや? かすかに、人の気配が・・・。気のせいか」
鬼は男には気づかず、首をかしげるとそのまま消えてしまいました。
さあ、この話しを聞いて、村人たちは前よりももっと用心する様になったのです。
仕事は明るいうちだけで、昼を過ぎるとみんな家から外には出ません。
そんな日が何日も続いたので、人間が食べられずに困った鬼は、今度は田や畑を荒らす様になったのです。
これには村人たちも困り果て、みんなは相談をして鬼を山ごと燃やしてしまおうということになったのです。
次の朝、みんなはさっそく山を取り囲むと、ふもとのあちこちから火をつけました。
「燃えろ! 燃えろ! 鬼を焼き殺せ!」
火はどんどん山の上の方へと燃え広がり、風にあおられて三日三晩燃え続けました。
こうして山は、すっかり焼けてしまいました。
そしてそれからというもの、鬼が出て来る事はありませんでした。
この事があってから、この鬼の住んでいた山を『鬼岳(おにだけ)』と呼ぶようになったのです。
おしまい