5月2日の百物語
頷く人形
京都府の民話
むかしむかし、江戸城に勤める役人に、菅谷次郎八(すがやじろはち)という若い男がいました。
次郎八は休みになると浅草へお酒を飲みに行き、そのうちに白梅(しらうめ)という店の女性と恋仲になりました。
ある春の事。
次郎八は、京の都にある二条城(にじょうじょう)へ勤める事を命じられました。
仕方なく京に行った次郎八は、白梅に会えない寂しさから毎日の様に手紙を書いて江戸へ送りましたが、手紙のやり取りだけでは満足出来ません。
「ああ、白梅に会いたい。会って白梅を抱きしめ、白梅の温もりを感じたい」
そこで次郎八は腕の良い細工師(さいくし)に頼んで、白梅そっくりの人形をつくってもらう事にしたのです。
完成した白梅と同じ大きさの人形は、とても白梅にそっくりで、お腹の中へお湯をそそぎ込むと本当の血がかよった人間の様に温かくなる細工がされていました。
次郎八はさっそく白梅の人形を隣に寝かせると、つもる話をしはじめました。
ところが不思議な事に、次郎八が話しを始めると、隣にいる白梅の人形が口を動かして、次郎八の言葉に頷くのでした。
次郎八は、びっくりして飛び起きました。
「ぬぬっ、人形が口をきくわけない。
さてはキツネかタヌキが人形に乗り移って、おれをからかっているのだな!
よりによって、白梅の人形に移るとは、許せん!」
次郎八は枕元に置いてある刀を取ると、白梅の人形をまっぷたつにしてしまいました。
さて、それから数日後の事、江戸の友人から急ぎの手紙が届きました。
その手紙を読んだ次郎八は、手紙を読んでびっくりです。
なんと手紙には、次郎八が人形をまっぷたつにした日の同時刻に、遠く離れた江戸の白梅が、お客に突然胸を刺されて死んでしまったと書かれていたのです。
おしまい