5月3日の百物語
あめ屋と子泣きじじい
むかしむかし、旅のあめ屋が山を越える途中で、道に迷ってしまいました。
日が暮れて薄暗くなってきたので、あめ屋はとても心細くなりました。
「恐ろしい物が出ないといいが・・・。でも、こう言う時に限って、何かが出るんだよな」
あめ屋が恐々歩いて行くと、どこからともなく子どもの泣き声が聞こえてきました。
「ほら、やっぱりだー!
やっぱり、出やがった。
・・・おや、子どもか?
こんな山の中で、子どもが泣いとるぞ。
こりゃあ、ただごとじゃないな」
泣き声をたよりに男がやぶをかきわけて行くと、三、四才の男の子が泣いたまま座り込んでいました。
「おおー、よしよし。
もう、泣かんでもよいぞ。
おじさんが、だっこしてやろう。
それにしても、親はどこへ行ったんじゃ?」
あめ屋は、男の子をひょいっと抱き上げてびっくり。
「うわっ! 子泣きじじいだ!」
なんとその男の子は、体は子どもなのに顔がおじいさんだったのです。
あめ屋はびっくりして投げ捨てようとしましたが、子泣きじじいは泣きながらしがみついて離れません。
「しまった!
うっかり、抱き上げるんじゃなかった!
一体、どうすればいいんだろ?
こら、泣くんじゃない!
泣きたいのは、こっちだよ」
子泣きじじいとは、親に捨てられたまま、おじいさんになった妖怪です。
泣き声で人をおびき寄せては抱き上げられる様にしむけて、そしていったん抱かれたら、そう簡単には離れてくれません。
「エーン、エエーン、町へ行きたいよう」
子泣きじじいはそう言って、ますますしがみついてきました。
「そんな事を言ったって、町までしがみついてこられたら、商売どころではなくなっちまう。・・・そうだ」
あめ屋は泣き続ける子泣きじじいの口に、あめ玉をひとつポイと放り込みました。
すると子泣きじじいは、こんなに甘くておいしい物はなめた事がないらしく、ピタリと泣きやむとニッコリ笑いました。
「おじちゃん。もうひとつ、おくれ」
「ああ。やるから、ちょっくら降りな」
「うん」
あめ屋は子泣きじじいにあめ玉を三個にぎらせると、そのすきに逃げ出しました。
無我夢中で逃げて行くと、ようやく村の明かりが見えてきました。
「やれやれ、助かった」
あめ屋が一軒の家の戸を叩いて助けを求めたところ、出て来たのは何と、さっきの子泣きじじいです。
「おじちゃん。もうひとつおくれ」
「うひょーっ!」
あめ屋は目を回して、その場にバタンと倒れてしまいました。
次の朝、目の覚めたあめ屋が辺りを見回すと家などなく、山の中の道ばたに空っぽのあめの箱が転がっているだけでした。
おしまい