5月4日の百物語
死ねないお坊さん
東京都の民話
むかしむかし、十八歳の時から合戦に出て、いくつもの手柄を立てた武士がいました。
ところが三十三歳になった時、人が殺し合うむなしさを感じて、突然頭をそると、お坊さんになってしまったのです。
それからは法然上人(ほうねんしょうにん)の教えを守って、厳しい修行を重ねました。
そのお坊さんが出家をしてから、四十六年がたった年の事です。
お坊さんは三十七日間、一日中、お経を唱える行をしました。
そしてそれが終わった夜、
「この世は、嫌な事ばかりじゃ! 生きていても、仕方がない!」
と、お坊さんは刀で自分のお腹を切って手を突っ込み、内臓をわしづかみにして引っ張り出すと、お寺の裏にある川へ捨ててしまったのです。
ところが不思議な事に、お坊さんは死にませんでした。
それどころか何の痛みもなく、普通の人と同じ様に動けるのです。
お坊さんは自分が死ななかった事を知ると、涙を流してくやしがりました。
「ああ、なんと言う事だ。なぜ、死ぬ事が出来ぬ。これは、三十七日間も祈り続けたせいなのか」
ある正月の夜の事。
寝ていたお坊さんの夢の中に、自分が尊敬している法然上人の声が聞こえてきて、
「十五日の夜、必ず迎えにいこう」
と、告げられたのです。
いよいよその日の夜が来ると、お坊さんは極楽浄土があると言われる西へ向かって正座をしました。
そして手を合わせながら念仏を唱えると、夜が明ける少し前、お坊さんはようやく静かに息を引き取ったのです。
おしまい