5月17日の百物語
宝蔵寺のお坊さん
茨城県の民話
むかしむかし、ある海辺(うみべ)の村に、宝蔵寺(ほうぞうじ)というお寺がありました。
この宝蔵寺のお金は、お坊さんと村の漁師(りょうし)たちが相談をして使う決まりになっていたのですが、新しくやって来たお坊さんが漁師たちに内緒で、自分勝手にお寺のお金を使ってしまったのです。
それを知った漁師たちは怒って、お坊さんをどうするかと相談をしました。
「あんな坊さんに、寺をまかせる事は出来ん。すぐに追い出そう」
「追い出すだけでは駄目だ! その前に、ひどくこらしめてやらないと」
そこである夜、お坊さんをこらしめようと考えた漁師たちがお坊さんをお酒に誘い出して、ぐでんぐでんに酔っ払ったお坊さんをお寺の古池へと突き落としたのです。
「はん、そこで頭を冷やせ!」
「頭を冷やしたら、二度と村には近寄るな!」
漁師たちはお坊さんをこらしめてから、お坊さんを助けて村から追い出すつもりだったのですが、酔っ払ったお坊さんはそのまま古池に沈んでしまい、漁師たちがあわてて引き上げた時にはすでにおぼれ死んでいたのです。
それから何年かたった、ある年の正月の朝の事。
漁師たちは、沖(おき)でしおを吹き上げるクジラを見つけました。
クジラを捕まえれば、しばらくは働かなくても良いぐらいのお金が手に入ります。
喜んだ漁師たちはすぐに舟を出して、沖へ向かいました。
そして手分けをして逃げるクジラを取り囲んだ漁師たちは、モリでクジラを仕留めようとしましたが、反対に暴れたクジラに舟を壊されて、たくさんの漁師たちが死んでしまったのです。
数日後、村では犠牲者(ぎせいしゃ)たちの霊(れい)をなぐさめようと、犠牲者たちの名前を刻んだ供養塔(くようとう)を建てました。
その時、その犠牲者たちの名前を見た村人たちが、ある事に気づきました。
何と犠牲者のほとんどが、宝蔵寺のお坊さんの事件にかかわった人たちだったのです。
この事から村では、
「あの池に投げ込まれたお坊さんがクジラに生まれ変わって、仕返しをしたに違いない」
と、言い伝える様になったそうです。
おしまい