5月19日の百物語
魔物のふろしき包み
むかしむかし、あるところに、力自慢の荷物担ぎの男がいました。
荷物担ぎの男は大きな荷物を担いでは、
「どけどけ、じゃまだ、じゃまだ」
と、街道を、我が物顔で行き来していました。
ある日の事、この荷物担ぎの男が峠の茶店で一休みしていると、一人の美しい旅の女が、
「その荷物、重そうですが、どのくらいおありですか?」
と、たずねてきました。
すると荷物担ぎの男は、自慢げに言いました。
「ざっと、七十貫目(70かんめ→260キログラム)だ。街道には多くの荷物担ぎが通るが、どいつもこいつもだらしなく、せいぜい十五貫目がやっとさ。がはははは」
それを聞いた旅の女は、
「では、わたくしのこの手荷物くらい、難なく持ち上げられましょうね?」
と、小さなふろしき包みを、荷物担ぎの男の前にポイッと置きました。
「当たり前だ。こんな物、小指の先で十分・・・」
荷物担ぎの男はふろしき包みに指をかけましたが、どうした事か、びくともしません。
「ややっ。これは、どうした事だ?」
荷物担ぎの男はふろしき包みの両側に足を踏ん張って、ふろしき包みを両手で持ち上げようとしました。
しかし小さなふろしき包みは、荷物担ぎの男がいくら頑張ってもびくともしません。
「こんなはずは。
うーん!
・・・なぜだ!
なぜ持ち上がらん!」
すると旅の女は、そのふろしき包みを片手でひょいと持ち上げて、
「ふん! 女の手荷物一つ持ち上げられないくせに、街道を我が物顔でのし歩くなんて、あつかましいにもほどがあるよ!」
と、言ったかと思うと、みるみるうちに口が耳まで裂けて化け物の姿に変わりました。
そして大きな口から、まっ赤な炎を噴き出しました。
「ギャーッ!」
荷物担ぎの男は悲鳴を上げてはいつくばると、懸命に祈りました。
「神さま、仏さま、ご先祖さま。何とぞ、お助けください!」
荷物担ぎの男がはいつくばったまま祈っていると、茶店の主人が心配そうに声をかけました。
「あの、お客さま。どうなさいました」
そこで荷物担ぎの男が恐る恐る顔を上げてみると、さっきの旅の女は影も形もありません。
荷物担ぎの男が、茶店の主人にたずねました。
「あの化け物は!?」
「化け物?」
「ああ、旅の女が、化け物に姿を変えただろう!」
「さあ? わたしは店の奥にいましたので、お客さま以外は、誰も見ておりませんが」
茶店の主人はそう言うと、不思議そうに首を傾げながら店の奥に戻ってしまいました。
「まさか、さっきのは夢だったのか? ・・・これは!」
荷物担ぎの男がふと地面を見ると、旅の女のふろしき包みと同じ大きさのくぼみが地面にあって、その両側に荷物担ぎの男が踏ん張った足跡がはっきりと残っていたのです。
「やはり、さっきのは夢ではなかった。あれはきっと神さまが、おれの力自慢をいましめようとしてやったに違いない」
それから荷物担ぎの男はすっかり気持ちを入れ替えて、二度と力自慢をしなくなったという事です。
おしまい