5月27日の百物語
弥三郎(やさぶろう)ばばあ
新潟県の民話
むかしむかし、新潟のある山のふもとの村に、弥三郎ばばあと呼ばれるおばあさんがいました。
弥三郎ばばあは村の嫌われ者で、付き合う村人は誰もいません。
するとその事をうらんだのか、 弥三郎ばばあは山に行って山犬やオオカミを手なずけると、山犬やオオカミと一緒に村人を襲うという事件を起こしたのです。
それから数ヵ月後のある日、弥三郎ばばあの息子の弥三郎が町へ用事に行った帰り、日が暮れかかる峠道にさしかかりました。
すると白髪をふり乱した鬼の様な恐ろしい顔の老婆が現れて、山犬やオオカミと一緒に襲いかかってきたのです。
「うわわわわーっ!」
びっくりした弥三郎は、あわてて近くの大きな木によじ登りました。
追いかけて来た老婆は弥三郎が登っている大木の根元まで来ると、弥三郎が逃げ出さない様に手下のけだものたちを木の周りに並べて、自ら木をよじ登ってきました。
弥三郎は、その老婆が自分の母親だとは思いもしません。
また弥三郎ばばあの方も、木の上にいるのが自分の息子だとも知りません。
弥三郎は老婆に気付かれない様に、腰にさしていた鎌を手に持ちました。
そして老婆が近づいて弥三郎の足をつかもうとしたその時、弥三郎は手の鎌を力一杯老婆の頭に打ちつけました。
「ギャーーーー!」
老婆はものすごい悲鳴をあげて木からずり落ちると、手下のけだものたちとやぶの中へ姿を消していきました。
「たっ、助かった」
弥三郎は木から降りると、脇目もふらずに家まで逃げ帰りました。
弥三郎が家に帰ると、朝は元気だった弥三郎ばばあが頭に手ぬぐいを巻いて寝ていました。
「頭を、どうしたんだ?」
弥三郎がたずねると、弥三郎ばばあはニッコリ微笑んで言いました。
「何でもないよ。ぼんやりして、柱に頭をぶつけただけさ」
しかし手ぬぐいににじんでいる血を見ると、傷はかなり深い様です。
「本当に、頭をぶつけたのか?」
「・・・・・・」
「もしかして、村人の誰かにやられたんじゃないのか?」
「・・・・・・」
弥三郎が心配して、弥三郎ばばあの頭の手ぬぐいに手を伸ばそうとしたその時、弥三郎ばばあはいきなりふとんをはね飛ばして起き上がり、
「わしの頭を割ったのは、お前じゃ! この親不孝者め!」
と、わめきながら、家の外へ飛び出して行きました。
弥三郎があとを追って外へ出ると、弥三郎ばばあは老人とは思えないほどの速さで山の方へと走って行き、その後ろを手下の山犬やオオカミたちがついていきました。
その後、村を出た弥三郎ばばあは弥彦山(やひこざん→新潟県の西蒲原郡弥彦村と長岡市との間)の岩穴に住み着き、山犬やオオカミたちと一緒に弥彦山のふもとの村で村人を襲ったり、墓場から死体を持ち出したりして、なんと二百年も生き続けたという事です。
おしまい