5月30日の百物語
九鬼ヶ浜
京都府の民話
むかしむかし、源頼光たちが、京の都で大暴れする鬼の親分の酒呑童子(しゅてんどうじ)を退治したのですが、その時に運良く九人の鬼たちが逃げ出して、小橋と言うところにやって来ました。
「鬼だ! 鬼が現れたぞ!」
小橋の村人たちは突然現れた鬼たちにびっくりしましたが、まともに戦っても勝てるはずがありません。
そこで庄屋さんが鬼たちを自分の屋敷に招待して、山海の珍味やお酒で鬼たちをもてなす事にしたのです。
そしてその夜、鬼たちが酒に酔ってぐっすり眠り込んだ所を、村の若者たちがクワや竹槍で襲いかかりました。
さすがの鬼たちも、酒に酔って寝ているところを襲われては、ひとたまりもありません。
こうして鬼は退治されたのですが、しかし鬼の中にもお酒が苦手な者がいて、酔っていない鬼の一人が浜辺の方へと逃げ出したのです。
「浜辺へ、鬼が逃げたぞ! みんなで、追いかけろ!」
いくら酔っていない鬼でも、大勢の村人が相手では勝てません。
村人たちに追い詰められた鬼は、村人たちに涙を流しながら頼みました。
「たっ、助けてください!
今後は、二度と人前には姿を出しません。
だから命ばかりは、助けてください!」
しかし村人たちは、よってたかって鬼を殴り殺したのです。
すると鬼は死ぬ前に、浜辺の砂を握りしめると、
「せめて、ここにお墓を作ってください」
と、言い残したのです。
この話を聞いた庄屋さんは、何だか鬼が可愛そうになって、鬼の言葉通りに浜に鬼のお墓をつくって、この浜を『九鬼ヶ浜』と名付けたのです。
おしまい