5月31日の百物語
空から降りてきたごちそう
岐阜県の民話
むかしむかし、ある山の上に、小さな村がありました。
ある日、村人たちが畑仕事をしていると、空の上からするするすると、長い長いひもにぶらさがったかごが降りて来ました。
「はて? 何が降りて来たんだ?」
みんなは、かごの周りに集まりました。
かごの中をのぞいてみると、中にはお酒やごちそうがいっぱい入っています。
「こりゃ、ありがたい!」
村人たちは大喜びで、お酒を飲んだりごちそうを食べたりしました。
そしてかごは空になると、またひもがするするすると動いて、かごを空の上へ引き上げてしまいました。
「不思議な事も、あるものだ。空から、ごちそうが降りてくるなんて」
「きっと、天の神さまの贈り物じゃ」
「そうじゃ、そうに違いねえ」
その日、村人たちは畑仕事をやめて、みんなで酒盛りをしました。
次の日、畑仕事に集まった村人たちが、口々に言いました。
「昨日の酒やごちそうは、うまかったなあ」
「ああ。おら、あんなごちそうを食ったのは、生まれて初めてじゃ」
「どうじゃ。今日も一つ、お願いをしてみようか」
「そうじゃ、そうじゃ。だめで、もともとじゃ」
そこで村人たちは、空に向かって言いました。
「かごよ、降りて来い。酒とごちそうをどっさり入れて、降りて来い」
すると空の上からするするすると、ひもにぶらさがったかごが降りて来たのです。
中を見ると、今度もお酒やごちそうが入っています。
「さあ、みんな。天の神さまの贈り物じゃ。遠慮無く、いただくとしよう」
今日もまた、にぎやかな酒盛りになりました。
そしてかごは空っぽになると、またするするすると空の上へ登って行きました。
次の日、話を聞いた村中の人たちが畑へ集まって、空に向かって怒鳴りました。
「かご、降りて来い!」
「どっさりごちそうを入れて、降りて来い!」
するとたちまち雲の中からかごが現れて、ものすごい勢いで落ちて来ました。
「あっ、あぶない!」
ひゅーーー、どすーん!
かみなりの様に大きな音と共に、村人たちの前に大きな大きなかごが落ちました。
「おおっ、こんなに大きなかごが降りて来たぞ」
「これなら村人全員でも、食いきらんわ」
「天の神さま、今日もごちそうになります」
村人たちが大喜びでかごに近づこうとすると、何と、かごから恐ろしい化け物が次から次へと飛び出して来て、
「おらたちの飯を食ったのは、誰じゃ!?」
と、怒鳴ったのです。
「ひぇーーっ! たっ、助けてくれー!」
村人たちはびっくりして、あわてて逃げ帰ったという事です。
おしまい