6月2日の百物語
大蛇になった娘
鹿児島県の民話
むかしむかし、上野の村に、七つになっても歩けない娘がいました。
ある日の事、その娘が母親に、
「花ダンゴが、食べたい」
と、ねだりました。
そこで母親が娘に花ダンゴを与えると、不思議な事に花ダンゴを食べたとたん娘は歩ける様になって、家から半里(はんり→約2キロ)も離れた湖へ水くみに出かけたのです。
心配した母親があとをつけると、娘は服を脱いで湖に入り、体をくねくねとくねらせて蛇の様に泳ぎだしました。
そしてその姿を母親に見られた事を知った娘は、
「正体を見られては、もう家へは帰れない」
と、言って、湖の中へ潜ってしまいました。
そしてすぐに湖から目玉が鏡の様にピカピカと光る大蛇が現れて、びっくりして逃げようとする母親に言いました。
「お母さん、わたしです。
そんなに、怖がらないでください。
わたしは大蛇になったけれど、来年の今日には必ず親孝行にまいります」
しかし、大蛇の姿に驚いた母親は、
「ああ、娘よ。そんな姿では、お前はもう娘ではない。二度と帰らんでもいい」
と、叫んで、家へ逃げ帰ったのです。
それから一年後の、娘の帰って来ると言った日。
母親は恐ろしさのあまり家中の戸を締め切って部屋に閉じこもり、ガタガタと震えていました。
すると、
「お母さん、お母さん」
と、外から娘の声が聞こえて来たのです。
「お母さん、入りますよ」
でも、家の戸がかたく閉まっている為、家に入れない娘は外で泣きながら言いました。
「お母さん、どうか戸を開けてください」
しかし母親は戸をしっかりと押さえて、大声で叫びました。
「娘よ、大蛇になったお前に、戸を開ける事は出来ない。
悪いが、もう帰っとくれ!
もう二度と、姿を見せないでおくれ!」
すると大蛇の娘は泣きながら、
「わかりました。
お母さんがそう望むなら、もう二度と姿を見せません。
・・・今まで育てていただき、ありがとうございました」
と、さびしそうに言うと、二度と姿を現さなかったそうです。
おしまい