6月3日の百物語
花に化けた山姥(やまんば)
むかしむかし、ある山間に、小さな村がありました。
ここは土地が狭く日当たりも悪いので、お米がろくにとれません。
それでも村人たちは、お正月が近くなるとお米でもちをついて神さまにそなえたり、自分たちで大事に食べたりしていました。
そんな村に、山から山姥(やまんば)がやって来て、
「もち、食わせろ!」
「もち、よこさねえと、暴れるぞ!」
と、村人に大きな手を突き出したのです。
村人が仕方なくもちを差し出すと、
「もっと、食わせろ!」
「もっと、よこせ!」
と、山姥は何度も何度も手を突き出しました。
困った村人たちは、庄屋(しょうや)さんのところへ相談をもちかけました。
「庄屋さま、何とかならんもんじゃろうか?」
「このままでは、村のもちを全て食べつくされてしまいます」
「そうだな。
うまくいくかどうかわからんが、わしに考えがある。
ひとつ、試してみるか」
そう言って庄屋さんは、庭でもちを焼き始めました。
でも、本物のもちは一つだけで、あとはもちに形が似た石です。
やがて本物のもちが焼けてくると、そのにおいをかぎつけた山姥が山から下りて来ました。
「もち、食わせろ!」
すると庄屋さんは、
「よしよし。では、一番でっかいのをやろう。さあ、口をいっぱいに開けてくれ」
と、熱く焼けた石を火ばしではさむと、山姥の大きな口に放り込みました。
すると、
「ギャーーーーー!」
口を大やけどした山姥は泣きながら山へ逃げ帰り、二度と村へ来る事はありませんでした。
「さすがは、庄屋さまじゃ」
「めでたい、めでたい」
村人たちは、大喜びです。
さて、次の年の春。
庄屋さんの屋敷で働いている娘が屋敷の前の川で洗い物をしていると、山姥が住んでいた山の方から珍しい形の種が流れて来ました。
「あら、庄屋さま。これは何の種でしょうか?」
「さあ、見た事もない種だな。よし、ためしに育ててみよう」
庄屋はその種を庭に埋めて、せっせと水をやりました。
するとすぐに可愛い芽が出てきて、だんだんに茎を伸ばし、青々とした葉っぱを広げて、朝顔の様な形の大きな赤い花を咲かせたのです。
「こりゃあ、見事じゃ。これほどの花は、見た事がない」
喜んだ庄屋さんがその花に顔を近づけてながめていると、その花はたちまち山姥の恐ろしい顔になって、
パクリ!
と、庄屋を飲み込んでしまったのです。
おしまい