6月8日の百物語
宝を守る屋敷の幽霊
むかしむかし、あるところに、とても正直な夫婦がいました。
しかし正直過ぎるのも困りもので、夫婦は何度も何度も人にだまされて家も有り金を全部取られてしまい、ひどい貧乏暮らしとなりました。
そこで困った夫婦は、ある町の長者の屋敷で働く事にしました。
すると長者は正直でまじめに働く夫婦に感心して、何年も使っていない一軒の屋敷を夫婦に与える事にしました。
「古い屋敷だし、夜中(よなか)に幽霊が出るとのうわさもある。しかし住むところに困っているのなら、ただであげるから引っ越してはどうかね」
「はい、ありがとうございます」
夫婦がその屋敷に住んでみると、なるほど、長者の言う様に変な事が毎晩の様に続きます。
風もないのに行灯(あんどん)の火が消えたり、戸がひとりでにガタガタとなったり、天井からは気味の悪い笑い声が聞こえてきたりするのです。
「わしは、こんな化け物屋敷はごめんじゃ。これなら、家なんかなくてもいい」
夫は恐ろしくなって言いましたが、しっかり者のおかみさんは平気きです。
「確かに不思議な事はありますが、別になんの害もないではありませんか。
せっかく、心優しい長者さまがくださったのです。
家を出たいのなら、一人で出てください。
わたしは、ここに残ります」
おかみさんはそう言って、本当に一人で屋敷に残りました。
するとその晩遅く、誰もいないのに床板がギシギシと鳴って、人が近づいて来る足音がしました。
そしてその足音がおかみさんの前で止まると、目の前におじいさんとおばあさんの幽霊が現れたのです。
さすがのおかみさんもびっくりしましたが、心を落ち着かせて二人の幽霊にたずねました。
「あなたがたは、どこのどなたですか?」
すると、おじいさんの幽霊が答えました。
「わしらは、この屋敷の宝を守る者じゃ。
お前は、しっかり者で度胸(どきょう)もある。
まったく、大したもんじゃ。
この屋敷の宝は、お前にやろう。
これでもう、わしらには心残りはない。
明日からは静かになるから、安心して暮らせ」
そしておじいさんとおばあさんの幽霊は、庭のある部分を指差したまま消えました。
翌朝、おかみさんが幽霊の指差したところを掘ってみると、何と千両箱がいくつも出てきたのです。
正直者のおかみさんは、その事をすぐに長者に知らせて、出て来た千両箱を全て差し出しました。
すると長者は、ニッコリ笑って言いました。
「これは、まじめで正直なお前にくださった物だ。わしはいらないから、お前たち夫婦で使いなさい」
「はい、ありがとうございます」
それからおかみさんは夫を屋敷に呼び戻すと、そのお金で幸せに暮らしたのです。
おしまい