きょうの百物語
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6月14日の百物語

いきをふきかける亡者

息を吹きかける亡者
青森県の民話

 むかしむかし、陸奥の国(むつのくに→青森県)の真行寺(しんぎょうじ)に、修行中の若い僧がいました。

 ある冬の日の事、若い僧が夜遅くまで一人で勉強をしていると、部屋のしょうじに人の様な影がうつりました。
(はて、こんな夜中に何者だろう?)
 若い僧は、しょうじのすき間に目をあてました。
 するとそこには、まるで幽霊の様な女が手をだらりと前に下げ、うらみを込めた青白い顔で立っていたのです。
(もっ、亡者(もうじゃ)!?)
 若い僧は怖くなり、頭からふとんをかぶりました。
 そして、しばらくすると、
 ヒューゥ、ヒューゥ。
と、すき間風の様な音が聞こえてきます。
 若い僧が恐る恐るふとんから顔を出してみると、あの女がしょうじの破れたところに口を当てて、部屋の中に白い息を吹き込んでいるのです。
 その息は雪の様に冷たく、部屋の中はどんどん冷えていきました。
(こっ、このままでは殺される)
 若い僧はふとんにもぐったまま、一心(いっしん)にお経(きょう)を唱えました。
 すると女はお経が苦手なのか、息を吹き込むのをやめて部屋の前を離れていきました。
(助かった)
 若い僧はホッとしてふとんからはい出すと、そっとしょうじを開けてみました。
 すでに女の姿はなく、台所の方から火の明りがもれています。
(おや? まだ誰か起きているようだ。ちょうどいい、少し暖まらせてもらおう)
 若い僧は寒さに手をこすりながら、台所へ行きました。
 ところが、かまどに火が燃えているのに誰もいません。
(おかしいな。・・・まあいいか)
 若い僧はかまどに近づくと、かまどの火に手をかざそうとしました。
 すると突然、目の前にさっきの女が現れて、ニヤリと笑いかけたのです。
 若い僧は、
「あっ!」
と、叫んだきり、そのまま気を失ってしまいました。

 やがて夜が明けて、朝食係りの僧たちが、かまどの前で倒れている若い僧を見つけました。
「おい、どうした? しっかりしろ!」
 その声に気がついた若い僧は、昨日の事をみんなに話した後、十日間も寝込んでしまったという事です。

おしまい

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