6月28日の百物語
揚松明
京都府の民話
舞鶴(まいづる)にある雨引神社(あめびきじんじゃ)は蛇神さまとも呼ばれて、今でも八月十四日の夜になると、揚松明(あげたいまつ)を夜空にかかげる火祭りが行われています。
これは、それにまつわるお話しです。
むかしむかし、蛇ヶ池(へびがいけ)という池に、恐ろしい大蛇が住んでいて、村人たちを困らせていました。
ある日の事、森脇宗坡(もりわきそうは)という侍の娘が、この大蛇に飲み込まれてしまったのです。
怒った宗坡(そうは)は、娘のかたきを討つ為に蛇ヶ池へと向かいました。
宗坡が蛇ヶ池のほとりにやって来ると、今まで静かな水面が急に波打ち始め、池の中から大きな大蛇が姿を現して、口から火を吐きながら宗坡に襲いかかろうとしたのです。
「お主が、娘の仇か!」
宗坡が手にした弓で矢を放つと、矢は見事に大蛇の右目を射貫きました。
これに怒った大蛇が暴れ狂いましたが、宗坡は落ちついて、もう一本の矢を大蛇の左目に命中させました。
さすがの大蛇も両目をつぶされてはどうする事もできず、ついに宗坡の槍でとどめをさされたのです。
ところが宗坡は、心のやさしい侍で、
「娘のかたきにお主を倒したが、お主とて、生きる為に食っただけの事。もう、恨みはない。ねんごろに弔ってやろう」
と、宗坡は大蛇の死体を雨引神社(あめびきじんじゃ)に運ぶと、ねんごろに弔ってやったという事です。
それから毎年八月十四日の夜になると、大蛇が火を吹く姿をした揚松明が夜空に揚げられる様になったのです。
おしまい