7月2日の百物語
歌うガイコツ
むかしむかし、とても貧しい村に、六べえ(ろくべえ)と、九べえ(きゅうべえ)という若者がいました。
「いつまでもこんな村にいては駄目だ。町へ働きに行こう」
二人はそう言って、村を出て行きました。
それから三年後、六べえは真面目に働いて貯金も出来ましたが、九べえは遊んでばかりいるので一文なしです。
そんな九べえに、お母さんが病気になったとの知らせがありました。
それを聞いた六べえは、財布から小判を取り出して言いました。
「おれもそろそろ村に帰って、百姓(ひゃくしょう)をしようと思っていたところだ。よければ、一緒に帰ろう。それからお前はおっかさんに見舞いの金がいるだろうから、この一両(いちりょう)を貸してやろう」
「すまねえ」
九べえがふと六べえの財布を見ると、小判がまだ何枚も入っています。
九べえはそれを見ると、ニヤリと笑いました。
次の朝、二人は一緒に村へ向かいました。
そして途中の峠で、九べえはいきなり六べえを刀で刺し殺して、六べえの財布を奪い取ったのです。
九べえは一人で村に帰ると、村中に六べえの悪口を言いふらしました。
「六ベえは働かずに酒ばかり飲んでいて、一文無しだ。恥ずかしくて、村に帰って来られないそうだ」
九べえはおかあさんの看病をしながら六べえから奪ったお金でブラブラと遊んでいましたが、やがてお母さんが死んで奪ったお金もなくなると、仕方なく、また町へ行って働く事にしました。
そして六べえを刺し殺した峠までやって来ると、どこからか不思議な歌声が聞こえてきました。
♪願いかなって、めでたやめでた。
♪すえはつるかめ、五葉の松。
♪ほーいほい、ほーいほい。
誰が歌っているのかと辺りを見てみると、何と木の枝に引っかかった人間の頭がい骨が、口をパクパク動かしながら歌っていたのです。
九べえは驚くよりも感心して、頭がい骨をふところにしまいました。
「ほう。歌うガイコツとは珍しい。町で見世物にすれば、大もうけ出来るぞ」
九べえが歌うガイコツを使って見世物小屋を開いたところ、毎日押すな押すなの大賑わいです。
九べえはたちまち金持ちになり、やがて評判を聞いた殿さまからも歌うガイコツを見せて欲しいと使いが来たのです。
「こいつは、運が向いてきたぞ」
九べえはお城へ行くと、お殿さまの前で歌うガイコツを取り出して言いました。
「さあ、歌うガイコツよ。いつもの歌を、お殿さまにお聞かせするのだ」
「・・・・・・」
ガイコツは、全く歌いません。
「これ、どうした。お殿さまの前だぞ」
「・・・・・・」
九べえは一生懸命に歌うガイコツに歌を歌わそうとしましたが、ガイコツは口を閉じたままです。
「こら、ガイコツよ。頼むから歌ってくれ!」
「・・・・・・」
やがて、お殿さまは怒って、家来に命じました。
「このうそつき男をしばりあげて、首をはねい!」
するとガイコツが、初めて口を開いて言いました。
「お殿さま、ありがとうございます。自分は九べえに殺された、六べえです。無念をはらそうと、この日が来るのを待っておりました」
そしてガイコツは、ほれぼれする様な歌声で歌いました。
♪願いかなって、めでたやめでた。
♪すえはつるかめ、五葉の松。
♪ほーいほい、ほーいほい。
おしまい